「めぐ、お腹減っただろ?ルームサービス頼もうか」

23時近くになり、ようやく二人は夕食を食べていないことに気づいた。
弦が内線電話でオーダーするのを聞きながら、めぐはふとテーブルの上のバラの花に目を向けた。
じっと見つめてから心を決める。

「氷室くん、私、長谷部さんに会ってくる」

花瓶を手に立ち上がると、電話を終えた弦が振り返った。

「……俺も行こうか?」

察したように真剣な表情の弦に、めぐは首を振る。

「ううん。一人で行くね」
「分かった。待ってるから」
「うん」

弦に見送られてめぐはフロントへと下りる。
ゲストの姿もなく静まり返ったロビーのフロントで、一人端末を操作している長谷部を見つけると、ゆっくりと近づいた。