「やっきにっくだー!」

仕事を終えて事務所を出るなり両手を上げて喜ぶテンションの高いめぐに、弦は苦笑いする。

「パーク内で食べていいか?コリアンバーベキューの店」
「うん、もちろん。会社の売り上げには貢献しないとね」

社員証をゲートにかざしてバックヤードを出ると、パークの中をゲストに交じって歩きアジアのエリアに向かった。
その一角にある韓国料理のお店では、本格的なコリアンバーベキューが味わえる。
二人は席に着くと韓国ビールを注文し、チヂミやチゲ鍋やチャプチェと一緒にプルコギ、カルビ、サムギョプサルを焼きながら楽しんだ。

「うー、お腹いっぱい。苦しい」

食べ過ぎて顔をしかめるめぐに、弦は呆れ気味に口を開く。

「女子ってさ、普通は焼き肉デート嫌がらない?」
「ええ!?初耳なんですけど。なんで?」
「服とか髪に匂いが移るのが嫌だ、とか、そのあとチュー出来なくなる、とか言われたことある」
「ふうん、なるほど。服と髪は洗えばいいし、チューもガムとか歯磨きでどうにかなりそうな気がするけどね。でも覚えておこう。心にメモメモ」

めぐがひとりごちると、弦はクスッと笑った。

「メモしてどうすんのさ?」
「いざって時の為にね」
「彼氏が出来た時の為?」
「そう。この歳で誰ともつき合ったことないって、ちょっとね。その分、情報は仕入れておこうと思って。経験値は知識でカバーよ」
「俺の変な知識が役に立つとは思えんけどな」
「氷室くんは経験豊富だもん。私の恋愛の師匠よ」

ぶっ!と弦は吹き出す。

「俺、そんな百戦錬磨じゃないぞ?清く正しく美しい恋愛しかしてない」
「ふふっ、そうなんだー。いいね、そういうの」
「めぐだって、今までいくらでもチャンスあっただろ?」
「うーん、やっかいな告白しかされたことない」
「めぐから好きになったりは?」

えー?とめぐは考え込む。

「そう言われるとなかったかも。とにかく言い寄られるのが苦手だったから、男性は避けて通る存在としか思えなくて。こんなふうに話せるの、氷室くんだけだよ。それも『恋人同盟』結んでからね」
「ああ、確かに。俺もこんなふうに気軽に話せる女子、めぐくらいだわ」
「なんかいい関係だよね、今の私達」
「だな。居心地いいし」
「うん。これからもよろしくお願いします」
「こちらこそ」

真顔でぺこりとお辞儀してから、二人で顔を見合わせて笑った。