昼休みも返上して、弦とめぐはショーの準備に追われた。
スタッフに名乗りを挙げてくれた社員に持ち場を記した配置図をメールで送り、誘導の流れを説明する。
普段の仕事もこなしつつ、ショーの技術スタッフにも残業を強いることを詫びに行った。
「いいよいいよ、俺達だってみんなに観てもらいたくてショーを作ってるんだからさ。逆にありがたい話だよ」
照明や音響、花火の担当者も一様に笑顔を返してくれ、めぐも弦もホッとする。
そしてあっという間に夜の7時になった。
「それでは皆さん、よろしくお願いします」
「はい」
広報課に集まった有志はスタッフジャンパーを羽織り、インカムを着けて持ち場に向かった。
弦がキャナルガーデンの鑑賞エリアを開放し、ゲストを順に誘導する。
横一列に並んでもらうと、その後ろにまた列を作る。
30分経ったところで、鑑賞エリアは満員となった。
『全スタッフへ。鑑賞エリアは満員の為、入場をストップします。ゲストからお問い合わせがあれば、21時の回をご案内してください』
インカムから弦の声を聞こえてきて、スタッフは口々にゲストに案内を始める。
めぐもあちこちを走り回って、トラブルがないかを見て回った。
ホテルのエントランスまで来ると、大勢のゲストがロビーに詰めかけているのが見える。
「長谷部さん!」
めぐは人の間を縫って長谷部に近づいた。
「雪村さん、大丈夫ですか?」
「はい。それよりどうしてこんなにゲストが?」
「誰かがホテルからショーが観られると吹聴したようです」
「ええっ!一体、誰がそんなことを」
「分かりません」
これでは宿泊やレストランなど、ホテルを利用するゲストに迷惑がかかってしまう。
どうしようかと考えあぐねている間にも、どんどんゲストが増えてきた。
「このままでは逃がしスペースが機能せずに危険ですね。今、氷室くんに連絡をして指示を……」
そう言ってめぐがスマートフォンを取り出そうとすると、長谷部が手で遮った。
「長谷部さん?」
「私の判断で、2階宴会場を開放します。音楽は聴こえにくくなりますが、そこからショーを鑑賞してもらいます」
「ええ!?」
「このままでは怪我人が出てしまう。雪村さん、手伝っていただけますか?ゲストを2階へと誘導します」
「はい!」
長谷部は階段の下に行くと、手前のゲストに話をしてゆっくりと階段を上がりながら誘導していく。
「何?どういうこと?」
「あの人なんて言ったの?」
戸惑ってざわつくゲストに、めぐは階段の下で声をかける。
「これより2階の宴会場へご案内いたします。音楽は聴こえ辛くなりますが、そこからショーをご覧いただけます」
そうなんだ!とゲストは笑顔で階段を上っていく。
めぐは「足元お気をつけて」を声をかけてから、インカムのスイッチを入れて話し始めた。
『全スタッフへ。ホテルロビーの逃がしスペースは混雑で危険な為、ホテル支配人の判断で2階宴会場へとゲストを誘導しています。ただしゲストへの積極的なご案内はしないでください。あくまで今ロビーにいらっしゃるゲストへの対応です』
『了解』と弦の返事が聞こえた。
(氷室くん、どこにいるんだろう)
もはや見渡す限り人の姿で埋め尽くされ、ショーが終わるまでは身動きが取れない。
めぐは長谷部の手伝いに専念することにした。
逃がしスペースにいたゲストは全員2階へと上がり、ロビーの混雑が緩和されてホッとする。
最後のゲストと一緒にめぐも宴会場に入ると、窓際にズラリと並んだゲストがショーの開始を待ちわびていた。
「雪村さん」
「長谷部さん!大丈夫でしたか?」
「はい、特に混乱は見られませんでした。問題はショーのあとですね。一気に人が動き出します」
「ええ。導線を確認させてください。一方通行で、最初に入場した人から順に階段へと誘導します」
「分かりました。ホテルスタッフの応援を呼びます」
「お願いします」
そうこうしているうちに、ショーの開始5分前のアナウンスがあった。
ゲストはわくわくと顔を見合わせている。
やがて1分前となり、パークの照明とBGMが絞られた。
シンと静まり返り、誰もが固唾を呑んでその時を待つ。
そして華やかな音楽と共にショーが始まった。
スタッフに名乗りを挙げてくれた社員に持ち場を記した配置図をメールで送り、誘導の流れを説明する。
普段の仕事もこなしつつ、ショーの技術スタッフにも残業を強いることを詫びに行った。
「いいよいいよ、俺達だってみんなに観てもらいたくてショーを作ってるんだからさ。逆にありがたい話だよ」
照明や音響、花火の担当者も一様に笑顔を返してくれ、めぐも弦もホッとする。
そしてあっという間に夜の7時になった。
「それでは皆さん、よろしくお願いします」
「はい」
広報課に集まった有志はスタッフジャンパーを羽織り、インカムを着けて持ち場に向かった。
弦がキャナルガーデンの鑑賞エリアを開放し、ゲストを順に誘導する。
横一列に並んでもらうと、その後ろにまた列を作る。
30分経ったところで、鑑賞エリアは満員となった。
『全スタッフへ。鑑賞エリアは満員の為、入場をストップします。ゲストからお問い合わせがあれば、21時の回をご案内してください』
インカムから弦の声を聞こえてきて、スタッフは口々にゲストに案内を始める。
めぐもあちこちを走り回って、トラブルがないかを見て回った。
ホテルのエントランスまで来ると、大勢のゲストがロビーに詰めかけているのが見える。
「長谷部さん!」
めぐは人の間を縫って長谷部に近づいた。
「雪村さん、大丈夫ですか?」
「はい。それよりどうしてこんなにゲストが?」
「誰かがホテルからショーが観られると吹聴したようです」
「ええっ!一体、誰がそんなことを」
「分かりません」
これでは宿泊やレストランなど、ホテルを利用するゲストに迷惑がかかってしまう。
どうしようかと考えあぐねている間にも、どんどんゲストが増えてきた。
「このままでは逃がしスペースが機能せずに危険ですね。今、氷室くんに連絡をして指示を……」
そう言ってめぐがスマートフォンを取り出そうとすると、長谷部が手で遮った。
「長谷部さん?」
「私の判断で、2階宴会場を開放します。音楽は聴こえにくくなりますが、そこからショーを鑑賞してもらいます」
「ええ!?」
「このままでは怪我人が出てしまう。雪村さん、手伝っていただけますか?ゲストを2階へと誘導します」
「はい!」
長谷部は階段の下に行くと、手前のゲストに話をしてゆっくりと階段を上がりながら誘導していく。
「何?どういうこと?」
「あの人なんて言ったの?」
戸惑ってざわつくゲストに、めぐは階段の下で声をかける。
「これより2階の宴会場へご案内いたします。音楽は聴こえ辛くなりますが、そこからショーをご覧いただけます」
そうなんだ!とゲストは笑顔で階段を上っていく。
めぐは「足元お気をつけて」を声をかけてから、インカムのスイッチを入れて話し始めた。
『全スタッフへ。ホテルロビーの逃がしスペースは混雑で危険な為、ホテル支配人の判断で2階宴会場へとゲストを誘導しています。ただしゲストへの積極的なご案内はしないでください。あくまで今ロビーにいらっしゃるゲストへの対応です』
『了解』と弦の返事が聞こえた。
(氷室くん、どこにいるんだろう)
もはや見渡す限り人の姿で埋め尽くされ、ショーが終わるまでは身動きが取れない。
めぐは長谷部の手伝いに専念することにした。
逃がしスペースにいたゲストは全員2階へと上がり、ロビーの混雑が緩和されてホッとする。
最後のゲストと一緒にめぐも宴会場に入ると、窓際にズラリと並んだゲストがショーの開始を待ちわびていた。
「雪村さん」
「長谷部さん!大丈夫でしたか?」
「はい、特に混乱は見られませんでした。問題はショーのあとですね。一気に人が動き出します」
「ええ。導線を確認させてください。一方通行で、最初に入場した人から順に階段へと誘導します」
「分かりました。ホテルスタッフの応援を呼びます」
「お願いします」
そうこうしているうちに、ショーの開始5分前のアナウンスがあった。
ゲストはわくわくと顔を見合わせている。
やがて1分前となり、パークの照明とBGMが絞られた。
シンと静まり返り、誰もが固唾を呑んでその時を待つ。
そして華やかな音楽と共にショーが始まった。



