「おはよう、めぐ」
「氷室くん!おはよう。早いね」

事務所に戻ると、弦がデスクでパソコンに向かっていた。

「企画課に渡す資料を作ろうと思って。誘導の導線やスタッフの配置ポイントを図にしておかないといけないからさ」
「そうだね。何か手伝うことある?」
「めぐも一緒に確認してくれるか?この図で分かりやすいかどうか」
「分かった。そうだな……ここに矢印入れたらどう?流れが目に見えるように」
「ああ、確かに」

二人で椅子を並べて相談しながら作業していると、環奈が出社して来た。

「おはようございます!」
「おはよう、環奈ちゃん。夕べはデート楽しめた?」
「それなんですけど、デートはともかくショーの観覧エリアが大変なことになってて。氷室さんが途中から仕切ってくださって本当に助かりました」
「あ、環奈ちゃんもやっぱりあの場にいたんだね?」
「はい。初めてのデートで手も繋げないほどドキドキしてたのに、キャナルガーデンに着いたらもうムギュムギュでしたよ。あの調子だと今夜のショーも危険だと思うんです。それを課長に伝えた方がいいかな?って、今日は早めに来ました」

そうだったんだ、とめぐは微笑む。

「ありがとう。私と氷室くんで今資料を作っててね。このあと課長に相談してから企画課に伝えにいくから、安心して」
「そうなんですね!さすがは雪村さんと氷室さん。良かったー。あ、じゃあ私コーヒー淹れますね」

環奈はパタパタと給湯室へと姿を消した。
やがて課長が出社して来て、めぐは弦と一緒に相談に行く。

「ああ、昨夜のことは部長からも報告があったよ。現場に居合わせた君達のおかげで事なきを得たらしいね。私も鼻が高かったよ」

褒められるのは嬉しいが、そんなことを話している場合ではない。
めぐと弦は、今夜も更なる混雑が予想されて危険なこと、せっかく来てくれたゲストをがっかりさせない為に2回公演を企画課に提案したいことを伝えた。

「うーん……、この資料はそのまま渡して構わんよ。よく出来てるし、この対策は必至だろう。だけど2回公演はなあ……。花火の予算もあるし、告知は間に合わないからゲリラ公演になるし、何より人手が足りない」
「無謀なのは分かっています。でもどうしても諦められません。課長、企画課に話をしにいくことをお許しください」

めぐが懸命に訴えると、課長はしばし考えてから頷いた。

「分かった。それで気が済むなら話して来なさい」
「ありがとうございます!行ってきます」

めぐは弦と顔を見合わせると、その足で企画課の部屋を訪れた。