「おはようございます、長谷部さん」
「おはようございます、雪村さん。よく眠れましたか?」
「はい」

翌朝のクリスマス。
めぐは7時にフロントに行き、ルームキーを長谷部に預けた。
本当はほとんど眠れなかったが、無理に笑顔を作って明るく振る舞う。

「お仕事、がんばってくださいね」
「ありがとうございます。長谷部さんはもうすぐ上がりですか?」
「ええ。仮眠室で休んで、夕方からまた勤務します」
「大変ですね。ゆっくり休んでください」
「はい。ところで雪村さん、バラはお部屋に飾ったままですか?」

突然話題を振られて、めぐはドキッとした。

「あ、はい。今夜お部屋からショーを撮影するので、その時までお水に浸からせておこうと思いまして」
「かしこまりました。客室のクリーニングスタッフに伝えておきます」
「よろしくお願いします」

ではまた夜に、とめぐはホテルを出て事務所に向かう。
まだ早いせいか、誰も来ていなかった。
電気をつけてから更衣室に行き、いつもロッカーに置いているスーツに着替える。
今日はテレビの取材が入っているが、撮影に立ち会うだけで出演はしない為、制服を着る必要はなかった。

(そう言えばテレビ中継はお昼の番組で、クルーとの待ち合わせ時間は11時だよね?それまでに企画課に話をしに行かなきゃ)

公演を増やしてほしいなど、簡単に聞き入れられるとは思えない。
けれどやると決めたのだ。

(なんとか説得してみせる)

めぐは鏡の中の自分に気合いを入れて、更衣室を出た。