教室が少し騒つく。花音の胸がドキドキと跳ねた。牡鹿先生は黒板に学級委員長などの役職を書いていく。書き終わると牡鹿先生は花音たちの方を向き、咳払いをした。

「みんなも知っていると思うけど、この学校には伝統があります。学級委員長と副委員長は普通の仕事以外にもその伝統があることをお忘れなく」

桜花高校は、開校当初からの伝統が続いている。それは学級委員長と副委員長になった者は中庭で花を育てなくてはならないというものだ。桜花高校は環境活動に力を入れているため、花を育てる以外にも街のゴミ拾いや草むしりなども生徒が行っている。

「では、早速学級委員長になりたい人!」

牡鹿先生がそう言った瞬間、花音は勢いよく手を挙げた。その目は夜空に輝く星のように煌めいている。彼女がこの学校に入学を決めたのは、この伝統を知ったことがきっかけだった。

花音は周りをチラリと見る。花音以外は誰も手を挙げていない。伝統や環境活動に力を入れている学校だとわかって全員入学しているはずなのだが、クラスメートの顔にははっきりと「面倒くさい」と書かれている。

(お花を育てるの、そんなに嫌なことなのかな……)