モノノケモノ

扉に手をかけ、力を込めて押した。

返事がないので「失礼しますよー?」ともう一度声をかける。

扉から首だけ部屋の中に入れてキョロキョロと辺りを見回した。

その部屋はとても広かった。

扉の正面には執務机がある。

壁は全て本棚で覆われていた。

月浦さんは「伝令がいっている」と言っていたのに、部屋の中には誰もいなかった。


「あのー……族長さん?

いらっしゃらないんですか?」


「お前が由香か」


突然左側から声をかけられた。

油断していたものだから、体がびくりと跳ね上がる。

今までそこには誰もいなかったはずなのに、背の高い、がっしりとした男の人が立っていた。

身長はたぶん190cmくらい、横幅なんて私の2倍はあるんじゃないかと思うほどだ。

見上げると、太い眉の下にあるぎょろりとした大きな目がこちらを見ていた。

恐い。

いかつい。