また、一夜明けた。
 朝はいつも、目が覚めた瞬間に頭がぼうっとしている。今日見た夢の余韻に浸れなくなって、半年が過ぎた。眠れば眠るほど、私の脳は疲れ果て、どんどん衰えていくような気がする。恐怖と闘うのは全然慣れない。
 ベッドから起き上がると、昨日打撲した両足首がジンジンと痛んだ。けれど、歩けないほどではない。なんとか立ち上がり学校へ行く支度を済ませる。お母さんから、「足は大丈夫なの?」と心配されたけれど、首を横に振った。 

「おはようございます」

 今日も校門の前で生徒指導の先生と挨拶を交わす。
 怪我はしているが足取りは昨日より軽い。
 ひとりぼっちだった教室で、羽鳥結叶という一人の人物と普通に話すことができたから。昨日初めて話しかけられた時はすごく失礼なやつだってムッとしたけれど、根はいい人だって分かった。
 今日も、彼と話をするのかな。
 心の中で羽鳥くんの占める割合がぐっと大きくなっていることに気づく。
 今までは、いかに里香たちの軽蔑の視線から逃げるかに必死になっていたのに。
 
 三年一組の教室にたどり着くと、まだ羽鳥くんは来ていなかった。
 教室の扉から中へ入ると、すっといくつかの視線が集まるのを感じる。もちろんその中には里香の視線もあった。
 里香は私を見ると、すかさずツカツカと歩いてくる。今日はクラスメイトの(みなみ)さんや真島(ましま)さんも一緒だ。クラスの中で派手な女子である二人と里香がつるむようになったのは、私が部活を辞めると伝えた頃だ。

「ねー恵夢、昨日結叶くんと一緒に保健室にいたって本当?」

「クラス中で噂になってたんだけど〜」

「二人で保健室でサボりとか、やらしぃ」

 教室に来る前に、昨日のことを誰かに咎められるかもしれないと覚悟はしていた。
 昼休みに羽鳥くんと話していたのを、かなりの人に見られていたし。あの後、五時間目の授業は二人で休んでいる。私はその後、六時間目も休んで下校した。羽鳥くんはみんなに私の怪我のことを話したんだろうか——ふと気になったけれど、彼は周りの人間に余計なことは教えていないような気がした。

「サボりじゃないよ。ちょっと怪我をしてしまって。……羽鳥くんは、頭痛で休んでただけだし」

 ちょっとだけ後ろめたい気持ちで反論する。彼は歴としたサボりだった。けれどここで本当のことを言う必要もない。