ゴールデンウィークの明けた学校の校門近く植えられた桜の木は、すっかり新緑の葉を茂らせていた。
 この辺りから、私の心臓はきゅっと小さくなり始める。
 なんなら、家を出る時も、今日は休もうかなと考えた。でも、ゴールデンウィーク明けに休んだりなんかしたら、二度と学校に行けなくなりそうでやめた。それに休んだらその分、里香(りか)たちから悪く言われるんだろうなと思うと、さらに憂鬱になった。
 進むも止まるも怖い。
 まさに今、そんな状況だ。

「おはようございます」
 
「……おはようございます」

 生徒指導の先生が校門で生徒たちに挨拶をする。うるさいくらいの大声で、朝から耳にキンキンと響いた。このまま耳を塞いで学校ではない遠い場所に行きたいと思うのだけれど、もちろんそんな勇気なんてなく。
 私は今日も、水島(みずしま)中学三年一組の教室へと歩いていく。

 内藤恵夢(ないとうめぐむ)、十四歳。
 中学三年生になったばかりの私は、フレッシュな気持ちで新しい学年の始まりを迎えることなんてなく、鬱々とした日々を送っている。
 ただ廊下を歩くだけなのに、絞首台へと進んでいるようだった。
 足が震える。特に今日は久しぶりの登校だから余計に震えがひどかった。もう半年以上もこんな状況だけれど、三年生になってよりひどくなった。原因は分かっている。去年の秋に発症した病気のせいだ。
「病は気から」というけれど、これって逆なんじゃないかって思う。
 病気になるから心まで弱っていくのだ。
 その証拠に、中二の秋に病気を発症するまでは、学校に行きたくないと思うことなんてなかった。病気が私を変え、凪いでいた気持ちに荒波を立てる。卒業まで謳歌するはずだった青春の一ページも、今では色褪せて明日に続いていくのが怖い。中学だけじゃなくて、高校でも同じだったら——そう考えるだけで、身の毛がよだつ。