求婚は突然に…       孤独なピアニストの執着愛

母は娘が抱えている闇を始めて目の当たりにして心配になる。

お昼近くに起きて来た心奈を見つめ、
「ねえ。足の怪我も全治1カ月なんでしょ?紫音さんだってお仕事で忙しい筈だし、毎日心奈をサポートしながら、仕事をこなすのは大変だと思うわ。せめて足の怪我が治るまで実家に戻らない?」

確かに怪我をしてからはキッチンにもまともに立てず、今の心奈は紫音にとって何の役にも立てないただのお荷物だと、薄々思っていた。だから、何も言い返せない。

きっと彼の為にも母の提案を受け入れるべきだとは思うけど…紫音さんと離れ離れになる寂しさに、私は耐える事が出来るだろうか…
心奈はそう思い、なかなか返事が出来ないでいた。

「分かってるの…このままじゃ駄目だって。少しでも役に立てるならって、思って一緒に住み始めたけど…紫音さんにとって今の私はお荷物でしか無いって…。」

紫音さんといて幸せだけど…心苦しい。側にいたいけど、これ以上負担にはなりたく無い。
そんな、今まで誰にも相談出来なかった不安を、初めて母に打ち明ける。

「私はいいのよ、心奈が幸せなら。ただ、少しでも引け目があるなら、怪我が治るまで実家に療養してくれたって問題ないの。明日、私が帰るまでに考えてみて。」
母からそう言われて、しばらく部屋にこもって考えてみる。

自分が寂しいから、離れたくないから…そんな気持ちだけで、忙しい彼の側にいる事はとても烏滸がましい事なのかも知れない。そう思うと、実家に帰る方に気持ちが傾いて行く。

日曜日の夜は母とこれからについて話し合いながら夜を明かす。
「彼に守られていれば平和で幸せだけど、彼ばかりに負担が大きいって事はずっと思ってたの。だけど、私が彼の側に居たくて…見て見ないフリをしてたの。」
そう心の内を露とすると、涙が次から次へと溢れ出す。

「さっき、あなたがお風呂に入ってる間、紫音さんから電話が来てね。あなたを実家に連れて行く事を提案してみたの。そしたら、心奈がそうしたいなら構わないって。
ただ、会ってちゃんと話しを聞きたいから、帰るまで待ってて欲しいって言われたわ。律儀で誠実な人よね。
明日の午前中には新幹線に乗るからお昼には帰って来るって。」

母はそう言って決定を先延ばしにしてくれた。紫音さんとちゃんと話し合おう。心奈もそう決めて少し眠る事が出来た。