(紫音side)
駆けつけた警察に保護された2人だが、雨でずぶ濡れのため事情聴取は明日にとなり、パトカーで自宅まで送ってもらう。

濡れそぼった心奈を先に風呂へと押し込み、俺はやっとそこで安堵する。怖い思いはしただろうが、見たところ発作は出てなかったから、早い段階で駆けつけられたようだ。

実は、心奈のスマホのGPSには、大きな揺れを感知すると俺のスマホのアラーム音が鳴る設定にしてあった。
心奈には大袈裟過ぎだと呆れられたが、今となってはやっておいて良かったと思う。
これで、いささか重い俺の愛も少しは認められるだろう。

濡れたシャツを脱ぎ捨てて彼女から渡されたバスタオルで身体を拭く。

温かい飲み物でもと思い、ヤカンを持って気が付く。左手の指関節が腫れている事に…。今更ながら人を殴ると自分自身も痛いんだという事を知った。

初めてだな…人を殴ったのなんて。
彼女が引っ張られるのを目にした瞬間、カッとなって、衝動的に勝手に身体が動いていた…こんな事は今まで無かった。

ほんの数分で風呂から出て来た彼女が、髪も生乾きのまま、俺に早く風呂へ入れと急かしてくるが、

「髪、ちゃんと乾かさないと。」
と、俺はドライヤーを握り彼女の世話をやこうする。

「紫音さん…お願いですから、先にお風呂へ入って下さい。コンサートも近いのに風邪をひいたら大変です。」
そう急かされて風呂場に押し込まれた。
意外と頑なところも彼女の魅力の一つだ。

熱いシャワーを一気に浴びて早めに上がり、リビングに舞い戻る。しかしそこに彼女は居なくて、前もって入れておいたココアも手つかずだった。