求婚は突然に…       孤独なピアニストの執着愛

よく朝、正気に戻った心奈が、驚きと共に飛び起きたのは言うまでもない。

「な、なぜこんな事に…?」
俺から距離を取ろうとするから、強引に布団に引き込みがんじがらめに抱きしめる。

「ちょ、ちょっと紫音さん…。」
酔いが覚めた心奈はいつもの恥ずかしがり屋に戻ってしまった。

昨夜の一部始終を話すと、顔を真っ赤にして謝って来るが、容赦なくキスで口を塞ぐ。
甘いお仕置きを繰り返し、満足した俺はやっと手を離す。

我に帰ると、大丈夫だろうかと罪悪感が湧き始める。これは毎回思うのだが…怖がらせてはないか、嫌われてはないか、男性恐怖症の彼女はいつ症状が出るか分からない。

初めて会った時に見た発作は俺の中の戒めでもある。距離を測り間違えないよう、慎重になるのは仕方ない事だ…。

「大丈夫?」
「大丈夫ですよ…。
早く起きましょ…いちご狩り行きたいです。」
呼吸を整えた心奈が、恥ずかしさを隠しバタバタと行ってしまうが、平気そうなのでホッとした。

それから朝食抜きで念願のいちご狩りに出かけ、楽しい時間を2人で過ごす。今まで俺の人生の中で、旅行というものをした事がなかったと改めて思った。

これまでピアノだけの人生だった俺は、大会やリサイタルで世界各国巡ってはいたが、その土地を堪能する事など一度もなく、部屋に篭りっきりだった事を心奈に話すと、勿体無いと嘆かれる。

彼女が一緒なら、狭かった俺の視野もこれからきっと広がって行くだろうと未来を夢見て家路に着く。