求婚は突然に…       孤独なピアニストの執着愛

そのまま頭を冷やす為に冷たいシャワーを浴びる。今夜は長い夜になりそうだと、冷静を取り戻し部屋付きの露天風呂に浸かる。

微かな潮の香りと空を仰げば輝く三日月。
心奈にも見せてやりたいな。そう思うといても立っても居られず、風呂もそこそこに浴衣に袖を通して部屋に戻る。

もしかして寝てしまっていないかと、先程の椅子に近寄ると心奈が居ない。こんな夜に1人部屋を出たのか?不安になって慌てて居処を探す。

「心奈…?」
「心奈、どこだ?」
部屋をうろうろとするが、返事がなくていよいよ外かと心拍数をあげながら1人焦る。もしかしてと、薄暗い隣りのベッドの部屋を覗く。
「心奈?」
ベランダがあったとは知らず、月明かりに人影を見つけホッとする。

「あっ…月が凄く綺麗だったので…すいません、探させてしまいましたか?」
青ざめているであろう俺を見つけて近寄って来る。

「良かった…どこかに行ったのかと…。」
俺の心配をよそにふふっと可愛く笑って、
「どこにも行きませんよ。」
と言う。
ぎゅっと抱きしめたいのを我慢して、頭をポンポンするにとどまる。

「温泉どうでした?熱かったですか?」
さっきまで俺のせいでくったりしてたのに、なぜが楽しそうに珍しくテンション高めだ。

「丁度良かったよ。」
そう教えると、
「私も入ってきます。」
と、カバンからパジャマを引っ張り出して、パタパタと動き出す。

浴衣で寝ないのかと若干がっかりする男心と、これ以上手を出したら嫌われるだろうからと、ほっとした気持ちが半々で、そんな自分に苦笑いする。

「あっ、そこにあるジュース飲んでくれていいですよ。」
ふと見るとベランダに置かれた、木製のリクライニングチェアの肘掛けに、缶ジュースを見つける。

「ありがとう。ちょうど喉が渇いていた。」
ベランダに出て、さっき彼女がいたであろう場所に座り、缶を手に取りグビッと飲む。

口に広がる冷たいレモンの風味が旨いが…
缶をおもむろに月明かりに照らしてみれば『お酒』の文字…

ヤバい…。
本日2度目の言葉を吐いて、急いで彼女の後を追う。さすがに脱衣室のドアを開けるのには躊躇し、外から声を掛けてみるが返事はない。

先程いたベランダから声をかけると『はい…?』と返事が聞こえてきた。飲んでたものは酒だと伝える。

すると『身体が何か暑いなぁって思ってたんです。』と、ケラケラ笑い始めるから、酔うと笑い上戸になるらしい心奈を、何とか言いくるめて早く出るように促す。

案の定、脱衣室で動けなくなった心奈は、パジャマの上だけなんとか着たという状態で、くたっと床に横たわる。

「ごめんなさい…紫音さん、なんだかふらふらして…。」
意識はあるようだが歩けそうもない心奈を抱き上げ布団に運ぶ。それにしても…何とも言えないあられなカッコに、俺の情緒は煽られまくる。

その後は水を飲ませたり、冷たい手拭いでほてった顔を冷やしたり、バタバタと世話を焼く。

そんな俺を終始笑い上戸になった心奈は、可愛くすくすと笑い、スリスリと擦り寄って甘えてくるから理性は崩壊寸前で、最終的には俺に抱きついたまま寝落ちしてしまった。

その柔らかな身体を無理に引き離す事も出来ず…

どうしようもなく疼く下半身を持て余しながら、ひたすら天井の木目を見つめて寝れない夜を過ごした。

この可愛く眠る小悪魔を、明日の朝にはどうしてやろうかと…まどろむ意識の中で、甘やかな復讐を考えながら眠りに着いた。