求婚は突然に…       孤独なピアニストの執着愛

(紫音side)

ヤバいと思った…。

残された理性を掻き集めてなんとか制御しなければ、怖がらせてしまうと思うのに、本能が彼女を求めて離せない。

絡めた舌から、抱きしめたか細い身体から、彼女の鼓動が伝わってくるのに、止めてあげられないのは、俺自身彼女に溺れてしまっているからで。

少しばかり酒の力も入っているのもしれない…。

彼女の涙は心臓に悪い。
高校時代によく弾いていた曲をリクエストされて、一気にあの頃の気持ちが蘇った。
助けたかった彼女の涙…何も出来なかった悔しい思い。

そして今、手を伸ばせばその涙を拭い取る事が出来るほど近くにいる優越感。

極め付けは集まった観衆から脱げ出して、その場から去ろうと差し出した手を、危うく拒まれそうになり心が揺れた。

押したり引いたり波のように、近付けたと思ったら遠ざかる危うい感じが…

俺の心を掴んで離さない彼女の一挙手一投足に揺れ動く。ただ、変わらないのは愛しているという気持ち。

とめどなく溢れ出るこの思いに支配されそうになる。彼女の唇を奪いギリギリのところで何とか踏み止まる。

呼吸を乱して、座り込みそうになる彼女を抱き止め抱き上げ部屋に運ぶ。
「ごめん…やり過ぎた。」

窓際にある椅子に座らせ、謝罪と共に片膝をつき手の甲に口付けを捧げる。彼女の前では何者でもなく、愛を乞うただの男だ。