少し肌寒くなって来た為、庭園を後にして部屋へ戻る事にする。2人手を繋ぎ歩いていると、ロビーの片隅にグランドピアノが置いてあるのを見つける。
ふと、見ると『ご自由にお使い下さい。』の文字。
綺麗なピアノ…そういえば、紫音さんの家にはピアノがない事に気付く。作業部屋にはもちろんキーボードは置いてあったが、PCと繋がっている為いつも彼はベッドフォンを付けて仕事をしている。
だから、ピアノを弾いているところを見たのはあのパーティーの時だけだった。
そんな私の心を読んだかのように、紫音さんがピアノの方へと歩いて行く。
「何がいい。リクエストは?」
ピアノのベンチシートに座り、私を手招きしながら聞いてくる。私は思わず
「えっ!?」
と驚き周りを伺う。
私といる事が見つかったらきっと大変な事になる…孤高のプリンスのイメージに傷がついたらいけないと怖気付く。
「大丈夫だよ、ロビーにはもう人は少ないから。」
フッと笑って紫音さんが私に手を差し伸べてくる。いつもの流れで無意識にその手に手を乗せるとぎゅっと引き寄せられて、2人掛けのベンチシートに座らされる。
…動揺を隠せない。
「何がいい?」
もう一度きいてくるから、
「…高校の時に弾いていた曲を…。」
クラッシックはよく分からない。名前も誰の曲なのかも…。ただいつも放課後の部活時に音楽室から聞こえてきた曲を、もう一度聴いてみたい。
紫音さんがひと息深く息を吸って吐く、そしてピアノにそっと触れる。
綺麗な旋律から始まった音は、私の懐かしい学生時代の記憶を一瞬で呼び起こした。
そう…そう。この曲…
いつも放課後確かに聞こえてきたのと同じ…。そう思うと、熱いものが込み上げてくる。
紫音さんの器用に動く長い指を見つめ、あの頃の後悔も押し寄せてくる。私に勇気があったら、あの頃住む世界が違うとか、相手にもされないとか思う前にもっと話しかけてみれば良かった。
弾き終えて、紫音さんはふーっと軽く息を吐き、
「この曲は『子犬のワルツ』留学先の課題曲だったんだ…どうした…?」
こちらを振り返って驚きの顔をする。
そっと頬に触れられて初めて気付く。
私泣いてた…?
心配そうな顔を向け、長い指で私の涙を拭ってくれる。
「…ごめんなさい。つい、あの頃を思い出しちゃって…。本当に、紫音さんが…先輩だったんですね。今、やっと実感出来ました。」
泣き笑いする私を、刹那そうな顔で見つめてくるから、これではいけないとぎゅっと唇を噛む。
「唇噛まないで…抱きしめるよ?」
その言葉を理解する前にぎゅっと抱きしめられる。
えっ…とここは、公共の場で…
こんなところを誰かに見られた大変な事に…
頭ではそう思うのに、この人の温もりを手離したくなくて押し返せない。
「ご、ごめんなさい…大丈夫です。」
どうにか涙を止め笑顔を作る。
ふと、見ると『ご自由にお使い下さい。』の文字。
綺麗なピアノ…そういえば、紫音さんの家にはピアノがない事に気付く。作業部屋にはもちろんキーボードは置いてあったが、PCと繋がっている為いつも彼はベッドフォンを付けて仕事をしている。
だから、ピアノを弾いているところを見たのはあのパーティーの時だけだった。
そんな私の心を読んだかのように、紫音さんがピアノの方へと歩いて行く。
「何がいい。リクエストは?」
ピアノのベンチシートに座り、私を手招きしながら聞いてくる。私は思わず
「えっ!?」
と驚き周りを伺う。
私といる事が見つかったらきっと大変な事になる…孤高のプリンスのイメージに傷がついたらいけないと怖気付く。
「大丈夫だよ、ロビーにはもう人は少ないから。」
フッと笑って紫音さんが私に手を差し伸べてくる。いつもの流れで無意識にその手に手を乗せるとぎゅっと引き寄せられて、2人掛けのベンチシートに座らされる。
…動揺を隠せない。
「何がいい?」
もう一度きいてくるから、
「…高校の時に弾いていた曲を…。」
クラッシックはよく分からない。名前も誰の曲なのかも…。ただいつも放課後の部活時に音楽室から聞こえてきた曲を、もう一度聴いてみたい。
紫音さんがひと息深く息を吸って吐く、そしてピアノにそっと触れる。
綺麗な旋律から始まった音は、私の懐かしい学生時代の記憶を一瞬で呼び起こした。
そう…そう。この曲…
いつも放課後確かに聞こえてきたのと同じ…。そう思うと、熱いものが込み上げてくる。
紫音さんの器用に動く長い指を見つめ、あの頃の後悔も押し寄せてくる。私に勇気があったら、あの頃住む世界が違うとか、相手にもされないとか思う前にもっと話しかけてみれば良かった。
弾き終えて、紫音さんはふーっと軽く息を吐き、
「この曲は『子犬のワルツ』留学先の課題曲だったんだ…どうした…?」
こちらを振り返って驚きの顔をする。
そっと頬に触れられて初めて気付く。
私泣いてた…?
心配そうな顔を向け、長い指で私の涙を拭ってくれる。
「…ごめんなさい。つい、あの頃を思い出しちゃって…。本当に、紫音さんが…先輩だったんですね。今、やっと実感出来ました。」
泣き笑いする私を、刹那そうな顔で見つめてくるから、これではいけないとぎゅっと唇を噛む。
「唇噛まないで…抱きしめるよ?」
その言葉を理解する前にぎゅっと抱きしめられる。
えっ…とここは、公共の場で…
こんなところを誰かに見られた大変な事に…
頭ではそう思うのに、この人の温もりを手離したくなくて押し返せない。
「ご、ごめんなさい…大丈夫です。」
どうにか涙を止め笑顔を作る。



