求婚は突然に… 孤独なピアニストの執着愛

それから2人で遅い昼食を食べる。
紫音が心奈のために注文してくれたのは、心奈が大好きなグラタンで、熱々をふうふうしながらパクパクと美味しそうに夢中になって食べている。

「そんなに慌てなくても誰も獲らないから大丈夫だよ。」
紫音はフッと笑いながら、心奈の口端に付いていたホワイトクリームを親指でそっと拭い取る。

それをそのままペロリと舐めてしまうから、心奈はドキンと高鳴る胸をひた隠し、真っ赤になった頬を隠すように、

「すごく美味しいです。」
と、一言だけ言って、またパクパクと食べ進める。
全ての皿を2人で食べ終えて、ご馳走様でした。と、手を合わせる心奈の真似をして、紫音も一緒に手を合わせる。

自宅で誰かと食卓を並べる。
こんな当たり前の事が妙に嬉しくて、何年振りなんだろうかと思ってしまう程だった。

紫音がそんな幸せに浸っていると、心奈がせっせっとお皿をキッチンへと運んで行く。

「片付けは俺がやっとくから、心奈は寝て。」
と慌てて立ち上がりキッチンに足を運ぶ。
だけど既に、心奈は腕まくりをして皿を洗い始めているから、ここに食洗機があるから並べて入れるだけでいいと教える。

「凄い。こんな食洗機初めて見ました。」
感動と驚きの目で、お皿を食洗機に並べて行く。

心奈はしばらく座り込んで、ガラス越しに食洗機の仕事をじっと見つめていた。
子供みたいだな。と、紫音もしばらくその様子を微笑みながらそっと見ていた。

気付けばもう1時を過ぎている。
「心奈。そろそろ寝ないとまた夜から仕事だろ？」
紫音がそう声をかけるまで、食洗機の前から動かなかった。

ゲストルームに通されて、心奈は自分のアパートよりも広くてびっくりする。

温められた部屋に、温かいふわふわのお布団。ベッドに入るなり秒で眠りについてしまった。