ほんの1分もないほどの会話だったけど、一気に気分が上がる。後少し頑張れば紫音さんに会える。
そう思うと、忙しい通勤ラッシュの時間帯も難なく乗り越える事が出来た。
バイトを終えて素早く着替えた私は、彼が待つコンビニ前の広場に走る。
「お待たせしました。」
はぁはぁと息を切らした私を見つけ、紫音さんが笑顔で歩み寄ってくれる。
「そんなに慌てなくても。」
大丈夫?と顔を覗かれ少し恥ずかしくなる。
「お仕事は…大丈夫なんですか?」
「ああ、帰ったら完成させる。待ってる間にいい感じにまとまったんだ。」
彼の主な仕事は作曲だから、いつでもどこでも仕事が出来る。そして机に向かってない時の方が、音が自然と降りてくるらしい。
通勤ラッシュで駅に急ぐ人々を尻目に、ガラス張りになったパン屋のイートインコーナーで、私達はパンを頬張る。
「焼きたてふわふわなのに、底はカリカリで美味しいです。」
紫音さんオススメの柔らかな塩パンは、バターが効いていて程よい塩加減でとても美味しい。
「心奈が笑ってくれると俺も嬉しい。」
目を細め嬉しそうにそう言う紫音さんは、カリカリベーコンとチーズの、硬めのパンが1番のお気に入りらしい。
なんでもヨーロッパの方では硬めのパンが主流で、スープと共に食べたりするらしい。
そして紫音さんが住んでいたウィーンはクロワッサン発祥の地だと言う。
パンだけで彼の事を、また一つ知る事が出来た。前は何を話していたのだろうと思うぐらい、偽物の付き合いは軽薄だったのだと思った。彼自身も私自身も無意識に、期限付きの付き合いに、深く話す事をやめていたんだなと思う…。
「もう眠いよな、心奈…。」
急に喋らなくなった私を心配して紫音さんが言う。
「えっ?いえ、噛み締めていただけですよ。」
「パンを?」
「パンもですけど、紫音さんの事。まだまだ知らない事ばかりだなって、思って。」
「ああ、そうだな。契約的な付き合いの時は深く聞けなかったし、話せなかった。
早く気持ちを打ち明けてれば…今となっては後悔ばかりだ。」
悔しそうにそう言う。
「私はお試し期間があったから、紫音さんに近付く事が出来たんだって思ってます。」
そう伝えると『そうか。』と呟いて微笑む。
彼の穏やかな空気感が好きだ。
いつも見守ってくれているような暖かな眼差しに、包み込むような包容力にホッとする。
今まで同世代の男の人とここまで深く関わった事はなかったし、きっとこれからもこんな人には出会えないだろうとも思う。
その後、自転車に乗って帰る私を父親のように心配し、見えなくなるまで見送ってくれた。
そう思うと、忙しい通勤ラッシュの時間帯も難なく乗り越える事が出来た。
バイトを終えて素早く着替えた私は、彼が待つコンビニ前の広場に走る。
「お待たせしました。」
はぁはぁと息を切らした私を見つけ、紫音さんが笑顔で歩み寄ってくれる。
「そんなに慌てなくても。」
大丈夫?と顔を覗かれ少し恥ずかしくなる。
「お仕事は…大丈夫なんですか?」
「ああ、帰ったら完成させる。待ってる間にいい感じにまとまったんだ。」
彼の主な仕事は作曲だから、いつでもどこでも仕事が出来る。そして机に向かってない時の方が、音が自然と降りてくるらしい。
通勤ラッシュで駅に急ぐ人々を尻目に、ガラス張りになったパン屋のイートインコーナーで、私達はパンを頬張る。
「焼きたてふわふわなのに、底はカリカリで美味しいです。」
紫音さんオススメの柔らかな塩パンは、バターが効いていて程よい塩加減でとても美味しい。
「心奈が笑ってくれると俺も嬉しい。」
目を細め嬉しそうにそう言う紫音さんは、カリカリベーコンとチーズの、硬めのパンが1番のお気に入りらしい。
なんでもヨーロッパの方では硬めのパンが主流で、スープと共に食べたりするらしい。
そして紫音さんが住んでいたウィーンはクロワッサン発祥の地だと言う。
パンだけで彼の事を、また一つ知る事が出来た。前は何を話していたのだろうと思うぐらい、偽物の付き合いは軽薄だったのだと思った。彼自身も私自身も無意識に、期限付きの付き合いに、深く話す事をやめていたんだなと思う…。
「もう眠いよな、心奈…。」
急に喋らなくなった私を心配して紫音さんが言う。
「えっ?いえ、噛み締めていただけですよ。」
「パンを?」
「パンもですけど、紫音さんの事。まだまだ知らない事ばかりだなって、思って。」
「ああ、そうだな。契約的な付き合いの時は深く聞けなかったし、話せなかった。
早く気持ちを打ち明けてれば…今となっては後悔ばかりだ。」
悔しそうにそう言う。
「私はお試し期間があったから、紫音さんに近付く事が出来たんだって思ってます。」
そう伝えると『そうか。』と呟いて微笑む。
彼の穏やかな空気感が好きだ。
いつも見守ってくれているような暖かな眼差しに、包み込むような包容力にホッとする。
今まで同世代の男の人とここまで深く関わった事はなかったし、きっとこれからもこんな人には出会えないだろうとも思う。
その後、自転車に乗って帰る私を父親のように心配し、見えなくなるまで見送ってくれた。



