求婚は突然に…       孤独なピアニストの執着愛

「ごめん…つい、衝動にかられて…。嫌いになった?」
フルフルと首を横に振る。

「許してくれる?」
ウンウンと首を縦に振る。

「また、してもいい?」
少しの間の後、こくんと頷く。

「顔見せて?」
フルフルと首を横に振る。

「…抱きしめてもいいか?」
近付いて来る気配を感じ、

「き、今日はもう、キャパオーバーです!」
と慌てて言うと、ピタッと彼の動きが止まる。

指の隙間から恐る恐る様子を伺うと、両手を軽く上げて止まっている。

まるで銃を向けられた犯罪者のようで…
ふふっと思わず笑ってしまう。

「もう、触れない。今日は…もう。」
自分に言い聞かせるようにそう言うと、彼は上げていた両手をゆっくり下ろして、ハンドルを握り締め、深呼吸してから車をそっと走らせる。

しばらく車内は沈黙が続く…

優しく昔懐かしい音楽が流れてくる。

その曲が心を宥めてくれて、隠していた手をそっと下ろす事が出来た。
膝に抱えていたテッシュで涙の跡を拭く。

きっと…お化粧が剥がれて大変な顔になってるはずだ…。
奪われたメガネがどこに行ったか分からなくて、車窓に映る自分の顔もよく分からない。

「こんな顔じゃ…お食事に行けない…。」
つい、そう呟くと、

「分かった。テイクアウトにしよう。車で食べればいいよ。」
なぜか慌てたように彼が言う。

「ほら、あそこにハンバーガー屋があるから、あれにするか?それとも…牛丼とか、ピザとか…。」
必死になってそう言ってくるから、

「ハンバーガーでいいです…。」
と、伝える。