求婚は突然に…       孤独なピアニストの執着愛

「…はい。」
その瞬間、椅子に座ったままの彼女を抱き上げる。

「ええっ…⁈」
急に抱き上げられて抱きしめられた心奈が驚きの声を上げる。

「心奈が好きだ。愛してる。これから先も俺に守らせて欲しい。」

ぎゅっと抱きしめれば、戸惑いながらも首に手を回し抱きしめ返してくれた。

「私も紫音さんが…大好きです。」
そんな風に答えてくれる彼女が可愛くて、愛しくて…離したくなくて、離れたくなくなる。

しばらく抱き合ったまま時間が過ぎる。

すると何処からともなく、モーツァルトの代表曲『フィガロの結婚』のピアノの旋律が流れてくる。

「あっ…私のスマホのアラームです。」
心奈が我に返ったように俺から飛び降りてしまうから、急に消えてしまった温もりに寂しくなる。

カバンからスマホを取り出しアラームを切った心奈を見つめ、

「何もしないから、今夜はここに泊まっていかないか?
君の病気の事は理解している。無理強いもしないし極力触れない。ちゃんと待てが出来る男だと分かって欲しい。ただ、今夜は帰したくない。」
駄目元でそう呟く。

「今…12時です。シンデレラの魔法は消えちゃいますよ…。」
戸惑いで揺れる彼女の言葉は可愛くて、愛しさが溢れ出す。

「俺の魔法は一生消えないから大丈夫。帰らないで欲しい。」
再度そう伝えると優しい彼女は迷い出す。

「でも…すっぴんは恥ずかしいですし…。」

「高校の時は普通にすっぴんだったろ?」
と、俺はいい返す。

「ほら…寝相だって悪いかも…知れないですし。」

「そんなの可愛いだけしかないよ。嫌なら他の部屋に寝てくれたって構わない。部屋は沢山あるんだから。」

「…替えの下着だって…持ってませんし…。」

「コンシェルジュに頼めば秒で持って来てくれるよ。」
彼女の否定を全て肯定に変えて行く。

最後には根負けした彼女が『分かりました…。』と首を縦に振ってくれた。