求婚は突然に…       孤独なピアニストの執着愛

「紫音さん…恥ずかしいです。下ろして…。」
心奈が小さな声で訴えて来る。

「それに、本当にごめんなさい…せっかくのパーティを台無しにしてしまって…。」
再度心奈が謝ってくるから、

「心奈のせいでは決してないし、台無しになんてなってないよ。俺が殴りかかる前に止めてくれたから大丈夫。心奈のお陰だ。ありがとう。」
言いたい事だけ端的に言ってエレベーターに乗り込む。本当はずっと抱えていたかったが、心奈が何度も下ろしてと訴えて来るから仕方なく下ろす。

部屋階にエレベーターが止まる。
心奈を支えながら降りると、直ぐにしゃがんでヒールを脱がす。慣れない靴のせいで踵から痛々しく血が滲んでいる。

「このまま歩くか?それとも抱き上げるかどっちがいい?」
下から覗き込むように心奈を仰ぎ見る。

「このまま、歩きます…。」
俺にヒールを取られて心元ないようだけど、スイートルームに向かう廊下は絨毯がフカフカだし、大丈夫だろうとそのまま歩かせる。

少し強引にしてしまった今までの一部始終を思い出し、自分を罰する為にも少し距離を取って、彼女の後を歩いていると、不意に立ち止まり振り返って俺に手を差し伸べて来る。

こんな事、今まで無かった…。

感動に打ち震える気持ちをひた隠ししながら、その手を握る。

「ヒールは自分で持ちます…。」
靴を返して欲しくて手を差し伸べて来たのか…と直ぐにがっかりしたが…。

それでも手を握り返してくれるから、このままでいいかと手を繋いで部屋へと向かう。

部屋に着いたら直ぐに、彼女をソファに座らせて、部屋用のスリッパを履かせる。

そこでやっと、はぁーと一息ついてジャケットを脱ぎネクタイを緩める。

「お疲れ様でした。ピアノ初めて聴きました。凄く感動しました。」
心奈がそう言ってくるから、

「初めてではないと思う…。」
と、真実を話すつもりでソファの隣り静かに座る。