(紫音side)
そうこうしているうちに、会場内の照明が落とされ、中央にあるステージにスポットライトが当たる。
「本日はようこそお集まり頂きありがとうございます。我が社、VOLDレコード30周年を迎えまして…」
司会者の女性の明るい声で式が始まり、社長の挨拶に、招待客の祝辞に入る。
心奈は先程から足が痛いのか、少しぎこちない歩き方をしていた。少し休ませたいと壁際に置かれた椅子に座らせ、オレンジジュースを飲んでいるところだった。
それなのに式が始まると、座っていては失礼になると思ったのか、立ち上がり懸命に拍手をしている。
今夜は俺の妻役として充分頑張ってくれた。腹も空いているだろうし、式が終わり次第帰ってもいいだろうと思っている。
式の最中、少しでも足の負担を減らしたいと手を差し出し、
「俺に寄りかかっていいよ。」
と、小声で告げる。
心奈は健気に微笑みを浮かべ手を取ってくれるから、その手を俺の腕に誘導し、持たれかかれるように配慮する。
えっ?と少し驚いた顔を向けるが、病気の発作が出る感じはないので、そのままの密着度で祝辞を聞く。
式も中盤に入ると、俺と同じレーベルに所属するアーティストが代表で、歌を披露し会場が一気にライブ会場へと変化する。
心奈も楽しそうしているから、俺も安堵し彼女を見守る。
今夜のパーティーはレーベルと契約を結んでから初の顔見せの機会だったから、多くの人と名刺を交換し挨拶を交わした。
心奈を妻だと紹介し、俺は既婚者だとふれ回った。
それというのも、帰国してから何故かいろいろな人から見合い話しを持ち出さた。年齢的に結婚適齢期なのかもしれないが、自分の娘はどうかとか、知り合いの娘さんが…と言う話しが増えた。
その事については丁重に断りを入れたが、私と付き合わないかとか、身の回りのお世話をさせて欲しいだとか、知らない女性から言い寄られ、ほとほと気持ちが疲弊した。
彼女と偶然にも運命的に再会した後、苦し紛れの口実で妻役を頼んだのだが、それが分かりやすく功を得た。
今までしつこく言い寄って来た令嬢や、秘書が遠回しに見てくるだけで、今日は近付いては来なかった。
普段からそう社交的ではない俺が、嬉しさのあまり妻ですと紹介して回ったのだから、これで既婚者だと納得してくれただろう。
ただ一つ、彼女に嘘をつかせた事だけが心苦しく、彼女に純心な笑顔を向けられるたび、ズキンと心が傷み出す。
このパーティーが終わったら直ぐにでも、本当の気持ちを打ち明けて、出来るならば本物の夫婦になりたいと俺の中の本心が疼く。
そんな事を考え、上の空でステージを観ていた俺だったが、急にスポットライトを浴びせられ、心奈がパッと離れてしまう。
司会者から名を呼ばれ、仕方なしにステージへと足を運ぶのだが…
こんな演習は聞いていない。他のアーティストと同じように呼ばれるのかと思っていた俺は、急に彼女から離された気がして、若干の不機嫌さを出してしまう…。
ステージ上から彼女を見れば満面の笑顔を向けてくれるから、単純なものでそれだけで気分は上がり、ピアノへと向かえば音も弾む。
定番のクラッシック曲と、ある企業のCM曲でタイアップされた曲を弾く。
曲の中盤で彼女の事が気に掛かり目線を送ると、知らない男が彼女に話しかけているのが目に付く。
誰だ…⁉︎
男性恐怖症の彼女は、見知らぬ男に過剰反応してしまう。俺と初めて会った時のように発作が起きなければいいが…
気が気じゃない俺は、曲調が若干速くなってしまった…。
弾き終えて、速くステージを降りて彼女を助けなければと思うのに、その後はインタビューへと続き、彼女の姿を見失ってしまう。
不安が一気に押し寄せて、話しもうざなりになり、早く舞台から立ち去りたいと焦りが生まれる。
そうこうしているうちに、会場内の照明が落とされ、中央にあるステージにスポットライトが当たる。
「本日はようこそお集まり頂きありがとうございます。我が社、VOLDレコード30周年を迎えまして…」
司会者の女性の明るい声で式が始まり、社長の挨拶に、招待客の祝辞に入る。
心奈は先程から足が痛いのか、少しぎこちない歩き方をしていた。少し休ませたいと壁際に置かれた椅子に座らせ、オレンジジュースを飲んでいるところだった。
それなのに式が始まると、座っていては失礼になると思ったのか、立ち上がり懸命に拍手をしている。
今夜は俺の妻役として充分頑張ってくれた。腹も空いているだろうし、式が終わり次第帰ってもいいだろうと思っている。
式の最中、少しでも足の負担を減らしたいと手を差し出し、
「俺に寄りかかっていいよ。」
と、小声で告げる。
心奈は健気に微笑みを浮かべ手を取ってくれるから、その手を俺の腕に誘導し、持たれかかれるように配慮する。
えっ?と少し驚いた顔を向けるが、病気の発作が出る感じはないので、そのままの密着度で祝辞を聞く。
式も中盤に入ると、俺と同じレーベルに所属するアーティストが代表で、歌を披露し会場が一気にライブ会場へと変化する。
心奈も楽しそうしているから、俺も安堵し彼女を見守る。
今夜のパーティーはレーベルと契約を結んでから初の顔見せの機会だったから、多くの人と名刺を交換し挨拶を交わした。
心奈を妻だと紹介し、俺は既婚者だとふれ回った。
それというのも、帰国してから何故かいろいろな人から見合い話しを持ち出さた。年齢的に結婚適齢期なのかもしれないが、自分の娘はどうかとか、知り合いの娘さんが…と言う話しが増えた。
その事については丁重に断りを入れたが、私と付き合わないかとか、身の回りのお世話をさせて欲しいだとか、知らない女性から言い寄られ、ほとほと気持ちが疲弊した。
彼女と偶然にも運命的に再会した後、苦し紛れの口実で妻役を頼んだのだが、それが分かりやすく功を得た。
今までしつこく言い寄って来た令嬢や、秘書が遠回しに見てくるだけで、今日は近付いては来なかった。
普段からそう社交的ではない俺が、嬉しさのあまり妻ですと紹介して回ったのだから、これで既婚者だと納得してくれただろう。
ただ一つ、彼女に嘘をつかせた事だけが心苦しく、彼女に純心な笑顔を向けられるたび、ズキンと心が傷み出す。
このパーティーが終わったら直ぐにでも、本当の気持ちを打ち明けて、出来るならば本物の夫婦になりたいと俺の中の本心が疼く。
そんな事を考え、上の空でステージを観ていた俺だったが、急にスポットライトを浴びせられ、心奈がパッと離れてしまう。
司会者から名を呼ばれ、仕方なしにステージへと足を運ぶのだが…
こんな演習は聞いていない。他のアーティストと同じように呼ばれるのかと思っていた俺は、急に彼女から離された気がして、若干の不機嫌さを出してしまう…。
ステージ上から彼女を見れば満面の笑顔を向けてくれるから、単純なものでそれだけで気分は上がり、ピアノへと向かえば音も弾む。
定番のクラッシック曲と、ある企業のCM曲でタイアップされた曲を弾く。
曲の中盤で彼女の事が気に掛かり目線を送ると、知らない男が彼女に話しかけているのが目に付く。
誰だ…⁉︎
男性恐怖症の彼女は、見知らぬ男に過剰反応してしまう。俺と初めて会った時のように発作が起きなければいいが…
気が気じゃない俺は、曲調が若干速くなってしまった…。
弾き終えて、速くステージを降りて彼女を助けなければと思うのに、その後はインタビューへと続き、彼女の姿を見失ってしまう。
不安が一気に押し寄せて、話しもうざなりになり、早く舞台から立ち去りたいと焦りが生まれる。



