ベートーヴェンの『運命』の曲がどこからか聞こえ、ハッと我に帰る。
その音がスマホの呼び出し音だったと気付くまで数秒…
おもむろに電話に出れば、今夜のパーティーの主催者側の担当者からだった。
『今晩は。今夜はよろしくお願いします。
ニ曲ほど披露して頂けると聴きまして、とても楽しみにしております。』
「よろしくお願いします。」
抑揚のない声で言葉少なに返す。
これが俺の平常運転で、普段はあえてテンション低めで生きている。
なぜかと言えば相手が女性だった場合、普通に話していたとしても、なぜか気のあるそぶりをされたり、笑うだけで言い寄られる事が多々あったからだ。
学生時代は知らないところで女性同士のトラブルが起こった事もあった。
『君さ。自分がモテる事、鼻にかけてるのかも知れないけど、少しは考えないとね。』
学生時代の恩師からそう忠告されて、俺は一切の感情を表に出す事を辞めた。
だから、いざ自分を受入れて欲しい相手を目の前にしても、上手く心を曝け出す事が出来ない人間になってしまっていた。
心奈に伝えたい言葉が沢山ある。
それを1つも口に出来ていない不甲斐ない自分が悔しくて、自分自身に怒りさえ覚える。
『今夜は奥様を連れて来て頂けるとの事ですが、表だって公表しなくても良いですよね?』
確認事項のように主催者側は聞いてくる。
「ええ、彼女は一般人ですし出来ればそっとしといて頂きたい。」
『良かった。やっぱり既婚者とそうでないかとでは、アルバムの売り上げも変わって来ますし、これからの活躍に、足を引っ張る可能性もあるので。
うちとしては『孤高の貴公子』として貴方を売り出したいと思っていますので、イメージを崩されてしまうとちょっと困るんですよねー。』
「はっ⁉︎」
孤高?…なぜ貴公子…⁉︎
突っ込みどころが一杯なのだが…。
「その…キャッチコピー入りますか?
全く自分とはかけ離れている気がするんですが…。」
『そんな事ないですよ。もう、立ち姿が貴公子って感じですから王子様?プリンスでも良いですね!』
「あまり…盛るのは辞めて頂きたい。そんなに若くもないので、プリンスはあり得ないと思います。」
イメージが一人歩きしている感が否めないが、こんなくだらない話しをしている暇はない。彼女を迎えに行く時間が押し迫っている。
「あまり盛り過ぎると、後々厄介なのでもう少し普通でお願いします。それでは後で。」
そう言って、一方的にスマホを切る。
はぁー。
日本に帰国して新しいレーベルの元、新たに再出発するつもりだが、ヨーロッパとは違う仕事環境に戸惑いを覚えてしまう。
なぜこんなにも構って来るのか…プライベートにも干渉し過ぎるし、プライバシーにも土足で入ってくる状態だ。
俺はともかく、もし心奈のプライバシーを侵害したら、直ちに契約解除してやる。そう思意を新たにして俺は立ち上がる。
今夜はこのレーベルの創立記念日のパーティーがある。
心奈に新妻役をお願いしたのは女性避けもあるが、1番はこの変な固定概念で作られている、俺のイメージを壊したいと思ったからだ。
たった1人の女性を愛す、ごく普通の男だという事を…。
それなのに…未だ彼女に好きだと言えず、一方通行の片思いを拗らせている。
ペアリングをポケットにしまい、ため息を一つ落とす。
その音がスマホの呼び出し音だったと気付くまで数秒…
おもむろに電話に出れば、今夜のパーティーの主催者側の担当者からだった。
『今晩は。今夜はよろしくお願いします。
ニ曲ほど披露して頂けると聴きまして、とても楽しみにしております。』
「よろしくお願いします。」
抑揚のない声で言葉少なに返す。
これが俺の平常運転で、普段はあえてテンション低めで生きている。
なぜかと言えば相手が女性だった場合、普通に話していたとしても、なぜか気のあるそぶりをされたり、笑うだけで言い寄られる事が多々あったからだ。
学生時代は知らないところで女性同士のトラブルが起こった事もあった。
『君さ。自分がモテる事、鼻にかけてるのかも知れないけど、少しは考えないとね。』
学生時代の恩師からそう忠告されて、俺は一切の感情を表に出す事を辞めた。
だから、いざ自分を受入れて欲しい相手を目の前にしても、上手く心を曝け出す事が出来ない人間になってしまっていた。
心奈に伝えたい言葉が沢山ある。
それを1つも口に出来ていない不甲斐ない自分が悔しくて、自分自身に怒りさえ覚える。
『今夜は奥様を連れて来て頂けるとの事ですが、表だって公表しなくても良いですよね?』
確認事項のように主催者側は聞いてくる。
「ええ、彼女は一般人ですし出来ればそっとしといて頂きたい。」
『良かった。やっぱり既婚者とそうでないかとでは、アルバムの売り上げも変わって来ますし、これからの活躍に、足を引っ張る可能性もあるので。
うちとしては『孤高の貴公子』として貴方を売り出したいと思っていますので、イメージを崩されてしまうとちょっと困るんですよねー。』
「はっ⁉︎」
孤高?…なぜ貴公子…⁉︎
突っ込みどころが一杯なのだが…。
「その…キャッチコピー入りますか?
全く自分とはかけ離れている気がするんですが…。」
『そんな事ないですよ。もう、立ち姿が貴公子って感じですから王子様?プリンスでも良いですね!』
「あまり…盛るのは辞めて頂きたい。そんなに若くもないので、プリンスはあり得ないと思います。」
イメージが一人歩きしている感が否めないが、こんなくだらない話しをしている暇はない。彼女を迎えに行く時間が押し迫っている。
「あまり盛り過ぎると、後々厄介なのでもう少し普通でお願いします。それでは後で。」
そう言って、一方的にスマホを切る。
はぁー。
日本に帰国して新しいレーベルの元、新たに再出発するつもりだが、ヨーロッパとは違う仕事環境に戸惑いを覚えてしまう。
なぜこんなにも構って来るのか…プライベートにも干渉し過ぎるし、プライバシーにも土足で入ってくる状態だ。
俺はともかく、もし心奈のプライバシーを侵害したら、直ちに契約解除してやる。そう思意を新たにして俺は立ち上がる。
今夜はこのレーベルの創立記念日のパーティーがある。
心奈に新妻役をお願いしたのは女性避けもあるが、1番はこの変な固定概念で作られている、俺のイメージを壊したいと思ったからだ。
たった1人の女性を愛す、ごく普通の男だという事を…。
それなのに…未だ彼女に好きだと言えず、一方通行の片思いを拗らせている。
ペアリングをポケットにしまい、ため息を一つ落とす。



