求婚は突然に…       孤独なピアニストの執着愛

「寂しくはないんですか?」
つい聞いてしまうけど、
「もう慣れたから。心奈だって地元を離れて1人で寂しくないか?」

「私、会社を辞めた事、まだ親に言えてないんです。だから、実家に帰れなくて…親には心配かけたくないし、帰ったらきっと田舎なので結婚しろって言われそうだし…。」

「そうか…それは困るな。」
紫音さんも言われる事があるのだろうか…?きっとイケメンだからジッとしてても、向こうから人がよって来るはず…

女性除けに既婚者と言ってしまったのも、モテ過ぎて困ったからだもんね…。

「なぜ、日本に帰って来られたんですか?」
ここぞとばかりにずっと疑問に思っていた事を聞く。

「日本のレーベルにスカウトされたんだ。日本を拠点に活動してみないかって。一つだけ…心残りもあって帰って来た。」

「じゃあ…これからずっと日本にいるんですか?」

「やっぱり食べ物も合うし、心奈にも会えたし、しばらくは日本も悪くないなって思ってる。ただ思いの外、俺の事を知る人が多いから生きづらさは感じている。」

「有名人も大変ですね。きっとおモテになるでしょうし…だから偽の妻が必要なんですね。」

「そうだな…。しばらくはそれで静かになってくれるといいけど。」
苦笑いをして食後のコーヒーを飲む。時計を見て『そろそろ時間か』と、私のバイト時間を気にしてくれる。

「普段はいつお仕事を?」

「心奈が働いてる時に作曲活動している。たまにスタジオで収録したりもするけど、3月までは大きなコンサートも無いし、のんびりなんだ。」

優雅な生活のようで羨ましい限りだけど、そんな凄い人に毎日送迎させて、申し訳けなさが込み上げてくる。

「紫音さん、パーティーが終わったら私の役目は終わりですよね。送り迎えは今週までにして下さい。貴方は私なんかの為に時間を費やして良い人では無いと思います。」
私から断ち切らなければと思い切ってそう言ってみるけれど…胸がチクチク痛み出す。

「それは、寂しいな…。
パーティーの終わりに少し話しをさせてくれないか?聞いて欲しい事がある。」
そう言う彼は真剣で、それはきっと軽い話しではないと分かる。
いろいろな覚悟を決めて、
「はい。」
と返事を返えした。