求婚は突然に…       孤独なピアニストの執着愛

「出来ればずっと知られたくなかった。そんなに気にしないで欲しい。」
はぁーっと大きなため息を吐いて、車は出発する。

「紫音さん…髪短くなって、前よりもっとカッコ良いです。」
少しでも気分を上げて欲しくて、そっとそう伝えると、
彼は手を口に当てて、そっぽを向いてしまう彼の耳が赤くなっている事に気付く…。

照れてるんだと理解するまで数秒要したけれど…言われ慣れてるはずの言葉なのに、と可愛くなってふふっと笑う。

「心奈はいつも不意打ちだ…。」
そう呟いて彼も笑ってくれるから、勇気を出して、いつも思っていた事を一つお願いしてみる。

「あの…一つお願いが…。その…髪の毛触っても良いですか?」
実は、私と違っていつもサラサラの紫音さんの髪に、ずっと触って見たかったのだ。

「髪?俺の…?」
はてなマークな紫音さんだけど、赤信号で停まると、どうぞっと言うふうに頭を下げてくれるから、

よしよしとするようにそっと撫ぜてみる。
「俺の髪に触って見たかったの?いつから?」
紫音さんがそう聞いて来るから、

「初めで会った時から…綺麗な髪だなって思ってたんです。」
と、告白する。

「そんなの早く言ってくれたら良かったのに、いつでも触ってくれて良いよ。俺は君の夫なんだから。」
と、嬉しそうに笑ってくれる。

「仮りのですよ…。」
「仮りでも良いんだ。既に俺の全ては君のものだから…。」

どういう意味か分からず首を傾げる。

紫音さんの全てが私のものなら…私の全ては紫音さんのもの…?
見せかけの夫婦の間だけの特権だろうか…。