求婚は突然に… 孤独なピアニストの執着愛

紫音さんの冷静な一言で、シンと緊張感が増した個室で私の髪は完成する。

メガネをかけて改めて見てみると、軽いモカブラウンに染められて、前髪も眉毛上で切り揃えられていた。真っ直ぐに伸ばされた髪はツヤツヤしていて肩下で揃えられていた。
なんだか違う人みたい…

自分で自分じゃないような。そんな感覚を覚える。

「心奈…可愛い…誰にも見せたくないくらいだ。」
そう紫音さんから耳元で言われて、思わず頬が真っ赤に染まる。

「奥様、絶対コンタクトにするべきです。こんなに綺麗な目をしてるんですから…メガネで隠してしまうのは勿体無いです。」
落ち着きを取り戻したスタイリストさんもそう言って、私にアドバイスしてくれる。

「心奈、まだ時間があるから夕飯食べて行こう。」
先程からスタイリストさんに塩対応な紫音さんは、私にだけ話しかけ、手を差し出して来る。
その手に手を重ねるとぎゅっと引っ張り立ち上がらせてくれる。

「ありがとうございました。」
私はそっと頭を下げて、スタイリストさん達に挨拶をする。

機嫌を損なったのだろうか…私といる時の紫音さんはいつも笑顔だったから、ちょっと心配になってしまう。

いつもと違う明らかに仏頂面の紫音が心配になって声をかける。

「紫音さん…大丈夫ですか？」

「ごめん…ちょっと…こんな形で心奈に知られたくなかったんだ…。」
バツが悪そうな苦笑いで、紫音さんは車に私を乗せてくれる。

「紫音さんって有名人だったんですね…。でもそれでしっくり来る事もありました。私、世間に疎すぎて…気付かずごめんなさい。」
そう言って、素直に頭を下げる。