求婚は突然に…       孤独なピアニストの執着愛

夜中のコンビニを訪れる客は少なくて、終電も過ぎれば誰も来ない時間帯も訪れる。
今夜みたいに寒い日は特に人足も減るだろう…

12時も半を過ぎた頃、入荷のトラックがやって来る。今夜は店長と2人体制だ。

夜中は普段3人体制なのだけれど、今日入る筈の学生が風邪で急きょ休みになった。

「ここちゃん、悪いんだけど品出し先にしてくれる。バックヤードにある品物から補充して欲しいんだ。」
店長の声で掃除をしていた手を止めて、先に品出しに入る。

「本当、君みたいな働き者が夜間に入ってくれて助かるよ。学生は気分次第で休みがちだからさ。」
店長の愚痴が止まらない。

「私、風邪をひきにくい体質なので…。」
と、ボソボソ答える。

「やっぱ、夜中に働いてくれる人を探すのって大変でさ。特に女子は怖いだろ?夜中は強盗が入ったりとか、無きにしもあらずだからさ。」
野田店長のおしゃべりは続く…

「私は夜の方が働きやすいので…。」

「昼間は普段何してるの?昼夜逆転?いつ寝てるの?」
2人だけをいい事に質問責めに合う。

普段は『私語は慎んで』と言ってる人が…。

「朝方帰ってから寝てます。お昼には起きて資格の勉強を…。」

「偉いね!勉強してるんだ。じゃあ、いつかは商社にまた戻るの?」

「今はまだ…分かりません。このままじゃいけないなって思ってはいますけど…。」

私の小さな足掻きは現実身を帯びず…この落ちた穴の心地良さを知り、未だ上を見たまま動けない現状だ。

「心奈ちゃんってよく見ると可愛いからさ。結婚とかして誰かに養って貰えば?
俺じゃ、おっさんだから君の眼中には無いかぁ〜。もうちょい若かったら、是非お嫁に来て欲しいくらいだよ。40過ぎると1人が楽で結婚とか考えなくなったな。俺は一生独身でいいや。」

1人でペラペラと話しを進める店長は、若干のコンプラ案件を平然と並べ立て楽しそうに笑う。

「私…結婚とか興味ないんで…。」
私は一言それだけ伝えると、レジ前に人影を見つけ駆けつける。