大都会を抜け出して、海辺の海岸線を紫音さんの車が走る。
社会人になってからずっと仕事一色の毎日だったから、旅行や遠出もした事がなかった事に気付く。
私に足りなかったのは息抜きだったのかも知れない…そう気付かせてくれた。
潮風の香りにも慣れた頃、車が暗闇にポカリと浮かびあがった明かりが灯る駐車場に停まる。
「ここに停めて少し歩くみたいだ。」
そう言って、後部座席から私のコートを渡してくれる。それに真っ白のふかふかマフラーも…。
「えっ…これは?」
見慣れないマフラーに首を傾げる。
「プレゼント。海辺は風が強いから、心奈が風邪をひいたら大変だ。」
そう言って、首元にくるくると巻いてくれる。
「…わざわざ買ってくれたんですか?ありがとう、ございます…。」
もらってしまって良いのだろうか…。この1週間送迎でお世話になったのは私の方。逆にお礼をしなきゃいけないのは私の方だ。
「遠慮されるかと思ったけど、買って正解だった。可愛い。」
嬉しそうに紫音さんが笑うから、ここは素直に受け取るべきだと理解する。
「本当に可愛いです。綿菓子みたい。」
「可愛いのは心奈だよ。」
そう言って、自分のコートを素早く羽織り、助手席のドアを開ける為に先に降りて、迎えに来てくれる。
いつものように手を差し出されて…。
そして…その手に初めて手を重ねてみる。それが、今の私の精一杯だ。
えっ…⁉︎
と、信じられないという顔で紫音さんが私の顔と手を交互に見る。それが少しおかしくて、私はつい、ふふっと笑ってしまう。
紫音さんも笑い返して、その手を噛み締めるようにそっと握って、車から私を下ろしてくれた。
「離したくないんだけど…。」
握った手をはなかなか離してくれない。そのまま手を引かれて歩き出す。
自分の鼓動の音を聞く…。
でもこの鼓動は病気とは別の感覚で…。怖いとか、嫌だとかは全く無く、むしろ私も離したくないと思ってしまうほどだった。
恥ずかしくてずっと足元ばかりを見て歩く。木製のキシキシと軋む階段を降りると、どこまでも続く浜辺に着く。
「もう少しだから。」
前を歩く紫音さんは、私の手を引きながら何度となく振り返り、私を気遣ってくれる。
夏場は海水浴場になっている場所に、レストランはあるんだと、あらかじめ教えてくれていたから怖くはないのけれど…。
恥ずかしくて下ばかり見て歩く私を心配してくれたのか、足を止めて、
「…手、離した方が良い?」
と聞いてきてくれる。
私は首を横に振り自己主張する。
「良かった。」
と、言って彼はまた歩き出す。
ぽつんぽつんと置かれた照明を頼りに、少し砂浜を歩いて行くと、パアッと明るい場所に出る。
さすがに顔を上げて周りを見渡すと、透明なドーム型のテントがいくつか並ぶ場所が見えて来る。
「…綺麗…。」
透明のドームから、仄かに漏れる灯りが煌めいていて、とても神秘的な空間だった。
その入り口に一つの小屋が建っていて、そこから若い男性のスタッフ出てくる。
不意に現れたその人に、ドクンと心臓はイヤな音を立てて警戒する。
ただのお店のスタッフなのに…。
やっぱり病気が改善されている訳ではないんだと気持ちが下がる。
私は怯えながら、紫音さんの背中に隠れて着いて行く。
それに気付いてくれたのか、紫音さんはさっきよりも、ぎゅっと力強く手を握ってくれた。それがとても心強くて、途端に気持ちが安定する。
私、この人だけは平気なんだと実感する。
社会人になってからずっと仕事一色の毎日だったから、旅行や遠出もした事がなかった事に気付く。
私に足りなかったのは息抜きだったのかも知れない…そう気付かせてくれた。
潮風の香りにも慣れた頃、車が暗闇にポカリと浮かびあがった明かりが灯る駐車場に停まる。
「ここに停めて少し歩くみたいだ。」
そう言って、後部座席から私のコートを渡してくれる。それに真っ白のふかふかマフラーも…。
「えっ…これは?」
見慣れないマフラーに首を傾げる。
「プレゼント。海辺は風が強いから、心奈が風邪をひいたら大変だ。」
そう言って、首元にくるくると巻いてくれる。
「…わざわざ買ってくれたんですか?ありがとう、ございます…。」
もらってしまって良いのだろうか…。この1週間送迎でお世話になったのは私の方。逆にお礼をしなきゃいけないのは私の方だ。
「遠慮されるかと思ったけど、買って正解だった。可愛い。」
嬉しそうに紫音さんが笑うから、ここは素直に受け取るべきだと理解する。
「本当に可愛いです。綿菓子みたい。」
「可愛いのは心奈だよ。」
そう言って、自分のコートを素早く羽織り、助手席のドアを開ける為に先に降りて、迎えに来てくれる。
いつものように手を差し出されて…。
そして…その手に初めて手を重ねてみる。それが、今の私の精一杯だ。
えっ…⁉︎
と、信じられないという顔で紫音さんが私の顔と手を交互に見る。それが少しおかしくて、私はつい、ふふっと笑ってしまう。
紫音さんも笑い返して、その手を噛み締めるようにそっと握って、車から私を下ろしてくれた。
「離したくないんだけど…。」
握った手をはなかなか離してくれない。そのまま手を引かれて歩き出す。
自分の鼓動の音を聞く…。
でもこの鼓動は病気とは別の感覚で…。怖いとか、嫌だとかは全く無く、むしろ私も離したくないと思ってしまうほどだった。
恥ずかしくてずっと足元ばかりを見て歩く。木製のキシキシと軋む階段を降りると、どこまでも続く浜辺に着く。
「もう少しだから。」
前を歩く紫音さんは、私の手を引きながら何度となく振り返り、私を気遣ってくれる。
夏場は海水浴場になっている場所に、レストランはあるんだと、あらかじめ教えてくれていたから怖くはないのけれど…。
恥ずかしくて下ばかり見て歩く私を心配してくれたのか、足を止めて、
「…手、離した方が良い?」
と聞いてきてくれる。
私は首を横に振り自己主張する。
「良かった。」
と、言って彼はまた歩き出す。
ぽつんぽつんと置かれた照明を頼りに、少し砂浜を歩いて行くと、パアッと明るい場所に出る。
さすがに顔を上げて周りを見渡すと、透明なドーム型のテントがいくつか並ぶ場所が見えて来る。
「…綺麗…。」
透明のドームから、仄かに漏れる灯りが煌めいていて、とても神秘的な空間だった。
その入り口に一つの小屋が建っていて、そこから若い男性のスタッフ出てくる。
不意に現れたその人に、ドクンと心臓はイヤな音を立てて警戒する。
ただのお店のスタッフなのに…。
やっぱり病気が改善されている訳ではないんだと気持ちが下がる。
私は怯えながら、紫音さんの背中に隠れて着いて行く。
それに気付いてくれたのか、紫音さんはさっきよりも、ぎゅっと力強く手を握ってくれた。それがとても心強くて、途端に気持ちが安定する。
私、この人だけは平気なんだと実感する。



