求婚は突然に…       孤独なピアニストの執着愛

夜中の11時半、筧さんと待ち合わせした近くのコンビニへと向かう。

よく考えたらこんな夜中に彼は大丈夫なんだろうか…。ピアニストという肩書きの人が、どんな毎日を送っているのかはさっぱり分からないけれども。

住宅街の暗闇にぽつんと浮かぶように建っているコンビニの駐車場に、一台の黒光りする大きなSUV車が停まっていた。

まさか…あの車だろうか…?
背の高い彼にはお似合いなんだろうけど、私…あの車に乗れるだろうか…。

狭い車内に男性と2人きりなんて緊張してしまう。病気の症状が出なければ良いのだけど…。

駐車場に近付いて行くと、筧さんがわざわざ車から降りて出て来てくれる。

今日の筧さんはメガネもしてない。前髪も自然な感じに下ろしているからイケメン度合いが増して見える。
ドキドキと心拍数が急上昇する。

「こんばんは、良かった来てくれて。」
本当に嬉しそうに笑顔を向けてくれるから、逆にこっちが恐縮してしまう。

「こんばんは…。あの、こんな夜中に大丈夫でしたか?」

「俺、どっちかというと夜型だから全然平気。とりあえず、乗って。」
わざわざ助手席のドアを開けてくれる。

「少し車高が高いから乗りにくくて申し訳ないけど…良かったら。」
と言って手まで差し出してくれるけど、

「…大丈夫です。」
と、お断りして、ヨイショっとなんとか車に乗り込む事が出来た。

それから丁寧にドアを閉めてくれた筧さんは、運転席に軽々乗り込む。足が長いって便利だなと、それを呆然と見てしまう。

「大丈夫そうなら出発するけど…。少し慣れるまで動かさない方が良い?」
私の体調を気遣ってくれる。

今のところ、初めての体験でドキドキはするけど…病気が発症する感じは無い。

「今のところ大丈夫そうです。こういう車初めて乗りましたけど車内が広いんですね。」
ぐるっと見渡してその広さに驚く。

「日本に戻って直ぐに買ったんだ。だけと、君を乗せるんだったら、もっと乗りやすい車にすれば良かったって後悔してる。」

いやいやいや…私との事なんて、どうせ忘れ去られてしまうくらいの時間でしかないだろうと思うのに…。

膝掛けを渡されて、温かいペットボトルのミルクティーまで用意してくれてあった。

「ありがとうございます。…でも、私にあまり気を使わないで下さい。逆に申し訳なくて乗れなくなってしまいます。」
あまりにも申し訳なくて、ミルクティーを握り締めたまま俯いてしまう。

「別に恩を売ってる訳じゃないんだ。少しでも君が快適に過ごしてくれたらそれで良い。眠かったら寝ててくれてもいいし、俺はただの便利なタクシーだって思ってくれたって構わないんだ。」

「そんな風に…思うなんて出来ません。」
私は首を横に振って否定する。

「そのくらい。君にとって空気になれればいいなと思う。大丈夫そうなら出発するね。」

私の顔色を伺ってくるので、こくんと頷くと、筧さんはフワッと笑って、優しくアクセルを踏み車が動き出す。