求婚は突然に…       孤独なピアニストの執着愛

その日から私の生活が一変する。
『仕事何時から?』
出だしはそんなたわいもないメッセージだった。
『12時です。』

『夜中の!?』

『はい…。』

『そうなんだ…いつも自転車で?』

『はい。』

『迎えに行く。家どこ?』

『…はい⁉︎』

ここまでメッセージでやり取りして、埒が開かないと思ったのかスマホの着信音が鳴る。
恐る恐るタップして出ると、
『もしもし、葉月さん?』
バリトンボイスの良い声が聞こえてくる。

「はい…。」

『迎えに行く。これから毎日、せめて返事をもらうまでの1週間はそうさせて欲しい。』

「いえ…あの、大丈夫です。いつも自転車ですし、心配なんてして頂かなくても、危ない事なんて無いです。」

『俺が大丈夫じゃない。俺が心配する。君は自分を分かってない。君みたいな子は男から見たら狙われやすいし、付け込まれやすい。』
 
私の何を知ってるの…?
出会ってここ2、3日で…しかもほんの数時間しか会ってないのに…ちょっとムッとしてしまうけど、言葉にはとても出せなくて…。

「今まで特に何もありませんでしたし…。」
としか言えない。

『今までが奇跡なだけで、これからは分からない。お願いだから送らせて。君の病気の事も少し勉強した。俺からは絶対君には触らないし、怖がらせる事もしないって誓う。』
なんでこの人は、私の事でこんなに必死になってくれるんだろう…最後は根負けして、

「あの…リハビリと思って、行きますけど…乗れなかったらごめんなさい…。決して筧さんのせいでは無いので…。」

『車に乗れなかったら歩いてでも着いて行く。』
そう断言する筧さんに、何だかおかしくなってしまい、ふふっと小さく笑ってしまう。

『今…笑った?』
そう聞かれ、
「…ごめんなさい。…何で私なんかの為にそんなに必死になってくれるんだろうって…。」

『…見たかったな……。
君に認められたいとかの前に、君の安全を守りたいんだ。』
たった1日だけの仮の夫婦を演じて欲しいだけで、そんなにも気にしてくれる彼が分からない。
元々人見知りで、今まで彼氏なんて存在がいた事のない私は、突然降って湧いたような出来事に頭が付いていけないままでいた。