求婚は突然に…       孤独なピアニストの執着愛

「…無理しないで、しばらくじっとしていた方がいい。俺はこれで失礼します。」 

自分がいない方が良いと判断したのか、彼は立ち上がり、私の肩を押して椅子に座らせ、頭を下げて足速に部屋を去って行った。

帰り際、店長に声をかけてくれたのか、慌てた店長が事務所に駆け付けてくれ、心配される。

最近はだいぶ落ち着いていたのに…
久しぶりに男性恐怖症の症状が出てしまった事に気持ちが落ち込む。
それからしばらく休んで家に帰る。

部屋で1人ベッドに潜り込めば涙が込み上げてくる。

少しは浮上しているだろうと思っていた自分の心の体調が、まだ何も治ってない事がショックで辛くて涙が溢れる。

前の会社で初めて発症したのは、入社して一年を少し経った時だった。

同僚だった3年先輩の教育係がやたら距離が近い人で、始めは頭を撫ぜられたり、手を握られたり、スキンシップの多い人だなと思うだけだったのだけど…
新年会で少しお酒が入った時、抱きつかれ好意がある事を告げられた。

私にとって彼は良き先輩で相談相手、それ以上でもそれ以下でもなかったから、直ぐにお断りはしたのだけど…。

その後も過剰なスキンシップと幼稚な嫌がらせを受け、どんどん気持ちが疲弊して行った。

そして、ある残業時に抱きつかれ胸を触らせてしまう。それからは怖くて、段々と会社に行く事事態、足が引けてしまう状態になり、会社のコンプライアンス部に駆け込んだ。

そこで『君に過失があったんじゃないか?男を誘う服装だったんじゃないか?』
と、私が悪いような言い方で攻めたてられて、助けを求める事も訴える事も怖くなって逃げてしまった。

結局私だけ部署移動になって、それでもその先輩は顔を合わす度に、何事もなかったように話しかけ来る始末…もうここには居られないと、疲弊した心で退職届けを出した。

いつまで経っても消えない記憶は、悪夢になって今だに忘れる事が出来ないでいる。
このトラウマを一生抱えて生きていかなければいけないのかと悲観する…。