「駄目って言ったら駄目ですから。」
私が少しでも怒ったような態度を見せれば、彼は必ず両手を挙げて降参の姿勢をとるようになる。

今日は朝から、手によりをかけて料理をしている。それというのも、ささやかながらホームパーティーを開こうと、私の両親と紫音さんのお父様を家に招いている。

紫音さんは高校生の時から疎遠になっていた父親に、入籍を機に連絡を取った。
思いの外喜ばれたらしくて、私に会いたいとお義父様から要望があったと言う。

それならば、両家を呼んで顔合わせしようと言う事になり今日の日が決まった。

本当ならお店や料亭でやるべきかもしれないが、かしこまった形だと緊張してしまうから、ホームパーティーはどうかと、紫音さんに提案したら負担にならない程度でいいと、何なら部屋にシェフを招いてもいいと言い始めた。

そんな彼を宥めすかして、何とか私の手料理で事を成す。

そして今、どうにか体裁を整えて手料理が完成を迎える。

お昼には来るはずだからもう時間があまり無い。それなのに、さっきから紫音さんは私にちょっかいばかり掛けてくるのだ。

構って欲しいのは分かるけど、こっちは急いでるのに…。

ぷぅーと膨れっ面を作れば、慌てたように手伝い始める。

「このトマト俺が切るよ。後はサラダだけだろ?こっちは任せて、早く着替えておいで。」
やっと目を覚ましてくれたのか、通常モードに戻った彼は、甲斐甲斐しく助手に徹する。

「怪我したら大変ですから大丈夫です。紫音さんこそ先に支度を…流石に半裸はまずいですから。」

彼は先程から、シャワーを浴びて出て来たままの姿で…下はスウェットだけを履き、首からタオルをかけた半裸状態なのだ。

…さすがに人に見せられない。
孤高のプリンスのイメージを大きく崩す訳にはいかないのだから。

「何着ればいい?Tシャツとジーンズで構わない?」

一緒に住むようになって知ったのだけど、彼は意外と自分の身なりには無頓着で、服には実用性しか求めていないらしく、そのモデルのような体型を持て余している事を知った。

勿体無いと思う私は、彼の着る服を決めるのが最近の日課になった。

「ベッドサイドに出してあるので、それを着て下さい。絶対似合うと思います。」
今日の為にと買った彼の服を揃えながら、スタイリストにでもなろうかなと、考える今日この頃だ。