求婚は突然に…       孤独なピアニストの執着愛

「おはようございます。いらっしゃいませ。」
朝7時を回ると、通勤の為に駅に向かう人が一気に増えて来る。

コンビニのレジもこの時間、列をなして人々が溢れる。最近ではセルフレジを導入する店ばかりで、うちのようにお釣りをやり取りするレジは珍しくなって来ている。

決して資金投資をケチっている訳ではない。

お客様とのコミュニケーションを無くしたくないと言う、コンビニ愛溢れた店長の思いが強いからだ。
だから、どうしてもレジの回転が遅くなってしまうのだけど…。

朝の時間帯は電車に乗る人が多いから、時間にシビアで苛立ちを隠せない人もいる。それに見兼ねて近々一台だけセルフレジを導入する予定なのだけれど…。

「ねぇ、ちょっと早くしてくれる?」
電子タバコを買いに来た二十代くらいの女性が、先程から小銭を探す年配の女性客にイライラしている。

レジは三台フル回転だからどこか開けば良いのだけど…揚げ物を買う客と、コンビニ払いをする客が運悪く重なって、なかなかレジが動かない。

「お客様、少々お待ち下さい…。」
私も、それぐらいしか言えなくて…。一生懸命1円を探すお婆さんの手助けをする。

「あと、2円あるんだけど…見にくくて、ごめんねぇ。」
お婆さんは至ってマイペースだ。

「あった、あった。」
と嬉しそうに小銭を出すお婆さんに、苛立つ後ろの女性客…。

「ねぇ?電車乗り遅れたらあんたのせいだからね!」
私に向かってそう言って来る。ほんの1、2分の事なのに…ギリギリで混雑するコンビニに飛び込んだ自分のせいでは?と思うけど…

「大変お待たせしました。」
と、女性客の番になり謝罪して急ぎレジを打つ。

「これと同じタバコ。」
それなのに、番号も告げずに空箱を見せて来る。急いでいるなら番号くらい確認していて欲しかった…。
私は電子タバコの銘柄に詳しくないから、珍しい銘柄はどこにあるか分からない…。

「ちょっと…モタモタしないでくれる?」
イライラが積もる女性客。
店長の助けを借りて、なんとか電子タバコを探し出す。

「遅刻したらアンタのせいだからね!!」
そう叫びながら女性は去って行った。

こんな事くらいサラッと流せれば良いのだけど…今の私は笑って流せない。胸が抉れるくらい痛みを負う。

「お待たせしました…。」
だけど、次のお客様を待たせる訳にもいかなくて…なんとか声を出して応対して行く。