求婚は突然に…       孤独なピアニストの執着愛

「足の怪我の方は順調?痛くない?」
人生初の腕枕をされて、緊張のあまり固まる私に、紫音さんが優しく話しかけてくる。

「だいぶ楽になりました。固定具が取れたので動き易くなりましたし、お風呂も1人で入れますよ。」

「そうか、良かった。」
優しい笑顔で私の頬を撫ぜて耳たぶをもて遊ぶから、こっちはこんなにもドキドキしてるのに…恋愛偏差値が高過ぎて、この先大丈夫なのと変に自分を心配する。

「西園寺の事は手を打ったからもう大丈夫。」

「えっ!?だ、大丈夫なんですか?…もし、あの写真が流出しちゃったら大変な事に…。」
向こうは見境なく抵抗してくるだろうし、暴走したらと心配になる。

「大丈夫だ。先手を打って社長、彼女の父親に伝えたから。」
紫音さんは気に求めていないようで、そう言って私の頬をぷにぷにと摘んで、楽しそうに微笑みを浮かべいる。

「えっと…もしかして酔ってます?」

「さすがに日本酒は効いたけど、心奈のお父さんとも仲良くなれたし,楽しかったよ。まるで家族の一員になれたようで嬉しい。自分の父とはこんな風に砕けた会話を交わした事が無いなって思ったし、心奈の家族はみんな温かい。」

「良かったです。こういうの好きじゃないかと…。」
私が小さな不安を口にした途端、ぎゅっと抱き寄せられて額にキスしてくる。

「心奈の家族はみんな、空気感が心奈みたいで癒されたよ。」
そう言いながら…私の足の間に、足を擦り込ませて来るからドギマギしてしまう。

「えっ…え!?紫音さん…本当に酔ってます?」

「酔った事ないから分からない。でも、ふわふわして楽しいよ。」
これは…酔ってる。そう思うけど…猫のようにすりすりと頬を寄せてくる彼が可愛いくて、拒む事なんて出来やしない…。

「心奈が欲しい。叶うなら今抱きたい。だけどここは神聖な聖地だし、君が生まれ育った場所だから、下手に手は出せないし、それにご両親の信頼も…裏切れない。葛藤してるんだ。」
今度な唇に触れながらそう言ってくる。男の色気だだ漏れの彼は、容赦なく私に触れてくるのに、怖いとか嫌だとか…恐怖症の症状は一切無く、ただただ撫ぜられ背中とか、太ももに摺り寄寄せてくる足だとか、初心の私には刺激が強過ぎて…。

段々、ゾクゾクとお腹の奥かぎゅっとなってくるから、初めての経験に戸惑いもがく…。

「…し、紫音さん…こ、これ以上は私が…持ちません…。」

「うん…分かってる。ギリギリを攻めてるんだ。俺の気持ちも分かって…。」
情緒たっぷりにそう言われてしまうと太刀打ち出来ない。

「キスしたいけど、キスしたら負けな気がする。」
酔った紫音さんは心の声がただ漏れで、それすらも愛おしく思う私はきっと重症だ。

「…怪我が治ったら…思いっきり抱くから。それまでに覚悟を決めて欲しい…。」
そう言って、首筋にキスをして…スースーと寝息を立てて寝てしまう…。

寝たの⁉︎この状況で…⁉︎
本人は夢でも見ていたのだろうか…本当、タチが悪い。

こっちの気も知らないで、急上昇した心臓が、ついて行けずにまだドキドキしてるのに…。