求婚は突然に…       孤独なピアニストの執着愛

それから紫音さんは当たり前のように一緒に遅い夕飯を食べ、そのまま父の誘いで晩酌までしていた。

「いつの間にか仲良くなったの?」
キッチンで後片付けを手伝いながら母に尋ねると、
「毎週1回はこまめに連絡をくれてね。いつも心奈はどうしているか聞いて来てくれていたのよ。有名人でイケメンで、忙しい筈なのに優しい人よね。」
目がハートになっている母もどうやら彼にぞっこんらしい…元々ミーハーな人だけど…。

父と楽しそうにお酒を飲んでいる紫音さんに目を向けて、何かおつまみでも作ろうかしらと楽しそうにしている。

その後、充分に酔っ払った父を居間に残し、彼はお風呂に入って、私の部屋に敷かれた布団に当たり前のように寝転んでいた。

それがなんだか不思議な光景で、私だけが気持ちが未だ定まらない状態だった。

お風呂に入って、母にお休みを言ってから紫音さんが待つ自室に戻る。

そっと部屋に入れば、既にスースーと寝息を立てて眠っていた。枕元には母が出してきたであろう、私の子供の頃の写真が開きっぱなしだったから、見ながら寝落ちしてしまった事がよく分かった。

さすがにお疲れだったよね…。
枕元に座りそっと寝顔を見つめる。紫音さんの寝顔なんて初めて見るかも…。なんだか貴重なものを見られたようで、両手を合わせて拝みたい気分だ。

前髪を下ろした紫音さんは普段より幼く見えて、大学生と言っても分からないくらい。お肌もスベスベで羨ましい…。

こんな近くでまじまじと見る機会なんてなかなかないから、しばらくじっと息を殺して見つめていると、不意にぎゅっと腕を掴まれて
前のめりに倒れ込む。

「ひゃっ!」
と、咄嗟に手をつくと紫音さんの顔に後数センチ…えっ!?と、びっくりし過ぎて固まる。

「なんだ。寝込みを襲ってくれると思って待ってたのに。」
残念そうな顔で紫音さんがそう言って、軽く唇を寄せて来から、慌てて離れようともがきながら、

「お、起きてたんですか…?」

「寝てたよ。さすがに飲み過ぎた。布団入って?温めておいたから。」
シングル布団に2人…若干の恥ずかしさで躊躇しつつも、久しぶりの紫音さんに胸をときめかせながら、布団の中に潜り込む。