求婚は突然に…       孤独なピアニストの執着愛

コンコンコン

誰が部屋のドアをノックする。
お母さんかな…?夕飯を食べる気力もないけど。心配はかけらない…。重たい身体を無理矢理動かして、ドアまで足を引きずりながら歩く。

すると数秒早くガチャッとドアが開いて、長い指の大きな手がドアノブを握っているのが見える。

えっ…⁉︎
すぐに分かってしまう。
ついさっきまで、もしかしたら2度と会えないかも知れないと思っていた人…

「…紫音さん…。」

「…寝てるかも知れないと思ったんだけど、寝顔でもいいから会いたくて。
ごめん…なかなか終わらなくて来るのに手こずった。」
苦笑いしながら入って来たのは、紛れもなく紫音さんで…それまで我慢していた涙腺が一気に崩壊する。

「もう…会えないかと…。」
倒れ込むように抱き付き、子供のように泣いてしまう。そんな私をあやすようにポンポンと背中を優しく撫ぜてくれる。

「そんな事ある訳ないだろ。心奈に会いたくてどれほど頑張って来たか、褒めて欲しいくらいだよ。」

そう言って、そっと抱き上げられてベッドへと逆戻り、部屋の電気は消えたままの薄暗い世界だけど。この温もりも香りも全てに包まれて、これ以上無い安堵に包まれた。

しばらくこうしていると、先程の出来事は嘘のように思えてくる。誠実な彼に限って隠し事なんて決してしない筈…。そう思えたら幾らか気持ちも落ち着いた。

私が泣き止むのを待ってくれていた紫音さんが、優しい声で話し出す。

「どうして俺がもう来ないと思った?」
背中から抱きしめられ、彼の低くよく通る声が身体中に心地よく響く。

「話し難いなら質問を変える。俺が来る前に誰が来た?」

えっ…!?紫音さんは西園寺さんが来る事を知っていたの?
怪訝んな顔で振り返って見上げると、

「心奈のお母さんが、東京から訪問者が来たって教えてくれたから、友達だと言って心奈の居場所を聞いてきたそうだ。その後帰って来てから元気が無いって教えてくれた。」

以前から何かあったら些細なことでも教えて欲しいって、SMSの番号交換してたんだ。紫音さんがそう言って微笑む。