「いらっしゃいませ。」
今夜もコンビニのレジに立つ。
なんの気持ちもないまま、ただ淡々と仕事をこなす。それが今の私の精一杯だ。
「こんばんは。雪溶けちゃったねー。積もってくれたら明日仕事休みになるかと思ったのにさ。」
気さくに声をかけて来るのは常連客の近所のおじさん。
名前は知らない…年は60歳近く。
もう直ぐ定年のバツイチ子持ち。手は冬でも真っ黒に焼けていて、年季の入ったシワとゴツゴツした節々は職人のよう。
多分…大工か、外仕事の人じゃないかな…。
普段から週2でビールとおつまみを買いに来る。
「こんばんは。…本当、残念ですね。」
私は決まって、言葉最小限で対応する。
「でもさ、君も良く毎晩遅くから頑張ってるよね。こんな寒いのに、自転車なんだろ?」
多分、彼がここに来るのは話し合い手が欲しいから…。
夜中のコンビニは暇だと思われがちだから、そんな客も珍しくはない。
「そんなに遠くないので…。今日は歩きできました。昨夜は雪で自転車を置いて帰ったので…。」
「それは大変だったなぁ。おじさんいたら車出してやったのに…あれか昨日は事故渋滞ばっかりで、車の方が役に立たなかったか。」
ハハハ…と1人、笑いながらおじさんは買ったばかりのビール缶を開ける。
どうやら彼には私くらいの子供がいて、月に一度会えるのを生きがいに生きているらしい。
だから、寂しくなるとコンビニに遊びに来るのだ。私は一応仕事中…決して暇ではないのだけれど。
入荷された惣菜類を検品して棚に並べて行く。その間もおじさんはビール片手に私に話しかけて来る。
来るといつもこんな感じだから、あまり気にも止めないけれど…。
見兼ねたバイトの吉田君が私の代わりに言ってくれる。
「おじさん、暇なのは分かるけどビールは家で飲んで下さいよ。僕も飲みたくなっちゃいますから。」
嫌味にならない感じで、おじさんを追い払う。
さすが吉田君…コミ力の高さを発揮して、おじさんも笑いながら帰って行った。
「ありがとう。吉田君て、凄いね…。」
私が呟くようにそう言うと、
「凄いのは葉月さんですよ。良く耐えられますね。俺なんてイライラしちゃって無理でした。」
苦笑いしながらそう言う。
「なんか…1人で飲むのが寂しいんだろうなぁって思ったりして…。」
「葉月さんお人好し過ぎます。ああいう人を野放しにするとどんどんつけ込まれますよ。」
3歳も年下の学生にお説教されてしまう。
「すいません…以後、気を付けます。」
私はシュンとして、黙々と棚出しに入る。
「いえ…優し過ぎて心配になっただけなので…。」
吉田君も言い過ぎたかと、気まずそうにゴミ出しに行ってしまった。
男性恐怖症になってからというもの、こういう時にどう対応して良いか分からない。吉田君が怖いわけじゃないのに、勝手に手が震えてしまう。
上手く対応出来ない自分が情け無くて、不甲斐無くて泣きたくなる。
「ここちゃん、レジ入ってくれる?」
店長がいつの間かバックヤードから出て来てそう言ってくる。
多分…私が困っていると思ったんだろう。私の病気の事を唯一知ってる人だから…。
「すいません。ありがとうございます…。」
こんな面倒くさい私を雇ってくれて、気を遣ってくれる店長には頭が上がらない。
そんなたわいない1日、1日を何とか生き抜き、気付けば1ヶ月以上が経って新年を迎えていた。
世の中はまだお正月ムードが抜けやらぬ週末、不意にある人がコンビニを訪れる。
今夜もコンビニのレジに立つ。
なんの気持ちもないまま、ただ淡々と仕事をこなす。それが今の私の精一杯だ。
「こんばんは。雪溶けちゃったねー。積もってくれたら明日仕事休みになるかと思ったのにさ。」
気さくに声をかけて来るのは常連客の近所のおじさん。
名前は知らない…年は60歳近く。
もう直ぐ定年のバツイチ子持ち。手は冬でも真っ黒に焼けていて、年季の入ったシワとゴツゴツした節々は職人のよう。
多分…大工か、外仕事の人じゃないかな…。
普段から週2でビールとおつまみを買いに来る。
「こんばんは。…本当、残念ですね。」
私は決まって、言葉最小限で対応する。
「でもさ、君も良く毎晩遅くから頑張ってるよね。こんな寒いのに、自転車なんだろ?」
多分、彼がここに来るのは話し合い手が欲しいから…。
夜中のコンビニは暇だと思われがちだから、そんな客も珍しくはない。
「そんなに遠くないので…。今日は歩きできました。昨夜は雪で自転車を置いて帰ったので…。」
「それは大変だったなぁ。おじさんいたら車出してやったのに…あれか昨日は事故渋滞ばっかりで、車の方が役に立たなかったか。」
ハハハ…と1人、笑いながらおじさんは買ったばかりのビール缶を開ける。
どうやら彼には私くらいの子供がいて、月に一度会えるのを生きがいに生きているらしい。
だから、寂しくなるとコンビニに遊びに来るのだ。私は一応仕事中…決して暇ではないのだけれど。
入荷された惣菜類を検品して棚に並べて行く。その間もおじさんはビール片手に私に話しかけて来る。
来るといつもこんな感じだから、あまり気にも止めないけれど…。
見兼ねたバイトの吉田君が私の代わりに言ってくれる。
「おじさん、暇なのは分かるけどビールは家で飲んで下さいよ。僕も飲みたくなっちゃいますから。」
嫌味にならない感じで、おじさんを追い払う。
さすが吉田君…コミ力の高さを発揮して、おじさんも笑いながら帰って行った。
「ありがとう。吉田君て、凄いね…。」
私が呟くようにそう言うと、
「凄いのは葉月さんですよ。良く耐えられますね。俺なんてイライラしちゃって無理でした。」
苦笑いしながらそう言う。
「なんか…1人で飲むのが寂しいんだろうなぁって思ったりして…。」
「葉月さんお人好し過ぎます。ああいう人を野放しにするとどんどんつけ込まれますよ。」
3歳も年下の学生にお説教されてしまう。
「すいません…以後、気を付けます。」
私はシュンとして、黙々と棚出しに入る。
「いえ…優し過ぎて心配になっただけなので…。」
吉田君も言い過ぎたかと、気まずそうにゴミ出しに行ってしまった。
男性恐怖症になってからというもの、こういう時にどう対応して良いか分からない。吉田君が怖いわけじゃないのに、勝手に手が震えてしまう。
上手く対応出来ない自分が情け無くて、不甲斐無くて泣きたくなる。
「ここちゃん、レジ入ってくれる?」
店長がいつの間かバックヤードから出て来てそう言ってくる。
多分…私が困っていると思ったんだろう。私の病気の事を唯一知ってる人だから…。
「すいません。ありがとうございます…。」
こんな面倒くさい私を雇ってくれて、気を遣ってくれる店長には頭が上がらない。
そんなたわいない1日、1日を何とか生き抜き、気付けば1ヶ月以上が経って新年を迎えていた。
世の中はまだお正月ムードが抜けやらぬ週末、不意にある人がコンビニを訪れる。



