「伊集院さんが昨日見たって人は、もしかして人違いじゃないかな? だって私、お嬢様じゃないし。きっと、他人の空似だよ」
「いいえ。あたしはあなたが彗さんのお母様に、『羽生菜乃花です』って自己紹介するところから、ちゃんと見てたんだもの」
「……っ」
どうしよう。ここまで言われちゃうと、さすがにこれ以上言い逃れはできないよ。
だけど、本当のことなんて言えないし。
「あたしは、彗さんの婚約者候補のひとりだったのに! どうして庶民のあなたが、あの方の彼女なの!?」
伊集院さんの怒りはヒートアップし、彼女の声がどんどん大きくなっていく。
「何だ何だ?」
「伊集院さんと羽生さん、ケンカしてるの?」
徐々にクラスメイトたちがこちらに注目し始め、教室がザワザワする。
ま、まずい。どうにかして、この場をおさめなくちゃ。



