「口開けて?」
「えっ、口?」
突然のことに首を傾げながらも、彼に言われたとおりにすると。
彗くんが私の口に、フォークにさしたひと口大のチョコレートケーキを突っ込んだ。
ほんのりと甘いチョコレートの風味が、口の中いっぱいに広がる。
「それ、母さん手作りのケーキ。美味いだろ?」
「お、美味しいけど……」
「だったら、もっと食べなよ」
嬉しそうに、私の口元にケーキを運ぶ彗くん。
今はケーキを食べてる場合じゃないと思いつつも、口元に持ってこられるとさすがに食べないわけにはいかなくて。
私がケーキをモグモグするたびに、彗くんは笑顔になる。
「こっちのマカロンも食べてみてよ」
彗くんにお菓子を食べさせてもらうのは、ドキドキするけれど。
彗くんの笑顔と甘くて美味しいスイーツの数々に、自然と口角が上がる。
「やっと笑ったか」
「え?」
「菜乃花に、暗い顔は似合わない。やっぱり君は、笑った顔が一番良いよ」
「……ありがとう」
彗くんの笑顔につられて、私も微笑む。
単純かもしれないけど、やっぱり私は彗くんの優しい笑顔が好きだ。
だから……私は、彗くんのこの素敵な笑顔を守りたい。



