「……美味しい」
紅茶をひとくち飲むと、私はカップを持ったまま地面を見つめる。
私は今、この場にいても良いのかな?
もしもお兄さんが川で助けた女の子が私だって知ったら、彗くんはどう思うのだろう?
私は、彗くんのそばにいられなくなるのかな?
そう思うと急に怖くなって。彗くんから離れたくない、ずっと彼のそばにいたいという気持ちが強くなった。
ああ、こんなふうに思ってしまうなんて……きっと私は、彗くんのことを好きになり始めているんだ。
たまに少し意地悪なところもあるけど。本当は誰よりも優しくてかっこいい、彗くんのことが……。
私は、手をグッと握りしめる。
でも、諦めなくちゃ。
彗くんは、私が好きになっちゃいけない人だから。
それどころか、私は彗くんと一緒にいてはいけない。
彗くんの大切なお兄さんが亡くなるキッカケとなった私が、彗くんのそばにいて良いはずがない。
私が、椅子から立ち上がろうとしたとき。
「菜乃花」
彗くんに、腕をつかまれた。



