「ああ、もしかしてお客さんの話が聞こえちゃった? うん、そうだよ。兄の名前は葵。兄は、絵を描くのが好きだったんだ」
その瞬間、ピシャーンと雷に打たれたような衝撃が、脳天を貫いた。
うそでしょ……。
「菜乃花っ!」
体が大きくふらつき、倒れそうになった私を彗くんがとっさに支えてくれた。
どうしよう。私のせいで、彗くんのお兄さんが……。
「どうした、菜乃花。顔色が悪いぞ」
彗くんは私の背中を支えながら、近くのガーデンテーブルの椅子に座らせてくれた。
「ごめ……っ、ごめんなさい、彗くん……」
声も、手足もガクガクと震える。
「謝らなくていいから。慣れない場で、緊張しちゃったかな? お茶を淹れようか。見上!」
「はい」
彗くんに声をかけられた見上さんが、慣れた手つきでティーポットをカップに傾ける。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
見上さんからカップを受け取ると、ふわりと温かい紅茶の芳香が漂った。



