『葵くん』って……。
その名前を聞いて、心臓が小さく音を立てる。
「ああ、葵くん。8月で、亡くなってちょうど6年になるんじゃないかしら?」
「生まれつき心臓が悪かったって聞いてたけど、もうそんなに経つのねー。元気だったら、今頃は20歳よね? どんな大人になってたのかしら」
うそ。前に彗くんから、お兄さんが6年前に病気で亡くなったって話は聞いたことがあったけど……。
川で溺れた私を助けてくれたあの葵くんが、彗くんのお兄さんなの?
私を助けてくれたほうの葵くんも、心臓が悪かったって聞いていたし。年齢や亡くなった時期も同じだから、たぶん……。
「亡くなった葵くんの代わりに次男の彗くんが急遽、財閥の次期後継者になったけど。中学生になってから、随分と立派になられたわね」
招待客の話を聞き、私はその場に足が根付いたように動けなくなる。
「ん? どうした、菜乃花」
後ろをついて来ない私に気づいた彗くんが、私のそばまで歩いてきた。
「ねぇ。彗くんの亡くなったお兄さんの名前って、葵くんっていうの?」
彗くんに尋ねる声が、わずかに震える。



