私は、窓から彗くんのほうへチラリと目をやる。
「そっか。菜乃花にそんなことが……思い出したくないことだろうに、話してくれてありがとう」
彗くんが私の手を、そっと握りしめてくる。
過去の話をして、何か思われたりしたらどうしようって不安だったから……。
彗くんの大きくて温かい手に包み込まれると、すごく安心する。
「こんな話をしてしまって、ごめんね?」
「ううん……そうか。昔そういうことがあったから、菜乃花は前に街でひったくり犯を撃退してたのか。溺れた自分を助けてくれた男の子のように、人の役に立ちたいって思うのはすごいよ」
彗くんが、私に優しく微笑む。
「苦手なことが、ひとつやふたつあっても良いと思うし。その苦手なことに菜乃花は今日、逃げずにちゃんと向き合おうとしたんだから。それだけで、俺はえらいと思う」
「そうかな?」
「ああ。強くて優しい菜乃花も水が苦手な菜乃花も、全部含めて菜乃花だから。君は、そのままでいて良いんだよ」
「彗くん……ありがとう」
彗くんの優しい言葉が、私の心にしみ渡る。
「そうだ。菜乃花にこれを」



