隠れ御曹司は、最強女子を溺愛したい



更衣室に着いた私は水着に着替えるため、制服のボタンを外していく。


これから、プールに入って泳ぐんだ。


プールに……。


そう思うと、川で溺れたあの日のことが脳裏をかすめた。


どうしよう。もしあのときみたいに、また溺れたりしたら……。


頭に浮かぶ、私を助けてくれた葵くんの顔。


そして、胸の奥底に広がる不安な気持ち。


「あっ、そうだ。昨日、ララの散歩に行ったらね……」


『ララ』という名前のチワワのワンちゃんを飼っている千春ちゃんは、私の隣でその話をしてくれているのだけど……。


「そうしたら、ララが突然走り出して……」


やばい。千春ちゃんの話が、全然耳に入って来ない。


それどころか、川で溺れたあのときの記憶が急激に頭の中いっぱいになって……。


──『た、助けて……っ』


川で溺れて呼吸が上手くできず、水がどんどん口の中に入ってきて苦しかったあの日の辛さが襲ってくる。