「どうしたの?」
「ハチマキが取れそうだから。結び直してあげるよ」
「えっ」
彗くんに後ろを向かされて、するするとハチマキが解かれる。
うそ。彗くんに結んでもらうなんて……。
時折、彗くんの手が首元に触れて、ドキドキする。
「はい、いいよ」
「あ、ありがとう」
再びくるっと向き直された私の顔は、たぶん真っ赤だ。
見上げた彗くんの頭にも、私と同じ白のハチマキが。
「菜乃花なら、きっと大丈夫だよ。障害物競争、頑張って」
彗くんはニコッと微笑むと、ひらひらと手を振って走って行く。
もしかして、わざわざそれを言うために来てくれたのかな?
この間の体育祭の練習のとき、私がハードルで転んじゃったから。
「宇山くん、優しいね」
千春ちゃんが、私にコソッと耳打ちしてくる。
「うん、そうだね」
たまに少し意地悪なときもあるけど、彗くんは優しい。
私は走っていく彗くんの背中を見つめながら、彼が結んでくれたハチマキにそっと手を当てた。



