「……俺が菜乃花にキスするってことだよ」
「ええっ! キ、キス!?」
言葉の意味を理解した途端、瞬く間に頬が熱くなる。
そして私は、自分の口元をとっさに手で覆った。
そんな私を見て、彗くんは口の端を上げてフッと微笑む。
「分かったなら口じゃなく、俺の首に手をかけてくれる? そのほうが安定するから」
見上げた彗くんの表情は凛としていて、私はドキドキしながら、その首元に両腕を巻きつけた。
それから彗くんに抱えられたまま、保健室に到着。
「それじゃあ先生、菜乃花のことよろしくお願いします」
「はーい。任せてちょうだい」
彗くんは養護教諭の先生に私を託すと、グラウンドへと戻っていった。
「ねぇ。今の男の子って、彼氏?」
「はっ、はい……」
ニヤニヤ顔の先生に、私はコクコクと頷く。
今まで、ドラマや漫画でしか見たことのなかったお姫様抱っこをされたからだろうか。
彗くんがいなくなったあと、先生に膝を手当してもらっている間も、胸のドキドキはしばらくおさまらなかった。



