徐々に、意識が遠のいてきたそのとき──。
「菜乃花ちゃん!」
誰かに大声で名前を呼ばれ、気づいたら私は川岸に横たわっていた。
「菜乃花ちゃん、大丈夫?」
すぐ目の前には、男の子の顔のドアップ。
私を心配そうな顔で覗き込むのは、葵くんという中学生の男の子。
葵くんは絵を描くのが好きらしく、ここで写生をしているのをよく見かけていた。
ここで何度か会ううちに顔見知りとなった私たちは、会うと彼の絵を見せてもらったり、おしゃべりするようになっていた。
もしかして、葵くんが助けてくれたの?
私がこくっと首を縦に振ると、葵くんは安心したように微笑んでくれた。
そのあと私は意識を失ってしまって、あとのことはよく覚えていないけれど。
お母さんに、こっぴどく怒られて。
『菜乃花は、川に行くの禁止!』と言われてしまった。
それから自然とあの川へは行かなくなり、数週間が経った頃。
私は、溺れたあの日に一緒に川に遊びに行っていた友達から、葵くんが亡くなったという話を聞いた。



