私が花城学園の中等部に転入して、2週間ほどが過ぎたある日の朝。
「すごい。相変わらず、高級車ばっかりだなぁ」
校門前のロータリーには車で通学する生徒たちの車列ができていて、それを横目で見ながら私は校門をくぐる。
転校初日以来、もう二度と遅刻なんてしないようにしようと思った私は、朝早く家を出るようになった。
「菜乃花ちゃん、おはよう」
「おはよう、千春ちゃん!」
下駄箱のところで私に明るく声をかけてくれたのは、クラスメイトの江藤千春ちゃん。
栗色の髪を三つ編みにしている千春ちゃんは、とある大企業の社長を父に持つご令嬢。
少し前の体育の授業中、急に体調が悪くなった千春ちゃんを私がお姫様抱っこして保健室まで連れていったのをキッカケに、仲良くなったんだ。
「おお、羽生! いいところに来たな」
千春ちゃんと話しながら廊下を歩いていると、職員室の前で数学の先生に声をかけられた。