「1・2・3」
私にだけ聞こえる彗くんのカウントに合わせて、見よう見まねで足を動かす。
「そうそう。菜乃花、上手だよ」
優しいリード。私の腰を抱いたまま踏む、迷いのないステップ。
彗くんって、ダンスも上手なんだなあ。
最初は、動きがぎこちなかった私だけど。彗くんのおかげで、踊っているうちにだんだんと楽しくなってきた。
自然と足が動いて、まるで音楽と溶け合うようにステップを踏む。
目の前の彗くんの瞳には今、私しか映っていない。
私だけを真っ直ぐ見つめる大きな瞳に、吸い込まれちゃいそう。
触れ合う温かな手、ときどき交わる視線。
自信たっぷりに、私をリードしながら踊る彗くんは、この会場の誰よりもかっこよくて。
改めて私は、そんな彗くんが好きだと思った。
彗くんは、葵くんの弟だから。
好きになっちゃダメだってずっと思っていたけど……彼を好きにならないなんて、やっぱり無理だった。



