6年前の、あの夏の日。兄貴が全身びしょ濡れで家に帰ってきて。
俺がどうしたのか聞いたら、川に入ったって言ってた。
なぜなのか理由は話してくれなかったけど、程なくして兄貴の容態が急変して……。
俺は、拳をきつく握りしめる。
生まれつき心臓の悪かった兄貴が、どうして入るのを禁じられていた川に入ったのか、ずっと疑問だったけど。
あのとき兄貴は、川で溺れた菜乃花を助けたんだな。
「兄ちゃん……」
俺の口から、兄貴を呼ぶ声が漏れた。
「だから、あの髪飾りも……水が苦手な羽生さんが困れば良いと思って、学校のプールに……」
そうだ。髪飾り……!
蓮の言葉に、俺は慌ててその場から駆け出す。
走っていると、灰色の空からはポツポツと雨が降り出してきた。
雨粒が頬に当たってくるけど、俺は構わず走り続ける。
屋外プールのある建物の階段を駆けのぼり、扉を勢いよく開けて中に入った次の瞬間──。
「!」
目の前に飛び込んできた光景に、俺は息が止まりそうになった。



