「あのとき羽生さんが溺れていなければ、葵兄ちゃんが川に入ることもなかった。兄ちゃんは、今も生きていたかもしれないのに!」
蓮の怒鳴り声が、右から左へと流れていく。
そういえば前に一度、菜乃花が俺に話してくれたことがあった。
小学2年生の夏に、川で溺れたこと。
そのとき溺れた菜乃花を助けてくれた中学生の男の子が、亡くなってしまったこと。
川で溺れて以来、水が怖くて海やプールに入れずにいることを。
「……っ」
そうか。あのときの話の中学生は……兄貴のことだったのか。
まさか兄貴と菜乃花が昔、知り合っていたなんて……ようやく点と点が繋がった。
「兄ちゃんを死に追いやった子が、彗の彼女だなんてありえない。だから僕は、そんな子と付き合ってる彗が許せなくて……!」
鼻息荒く、拳を握りしめる蓮。
「それで、校舎から俺の頭上を目がけて花瓶を落としたのか?」
「いや。あのときは彗じゃなく、本当は羽生さんを狙った。彼女がケガでもして、今度の三池財閥のパーティーに出席できなくなれば良いと思ったんだ」
そういうことだったのか。
まったく、なんて弟だ。
真実を知った俺は、何とも言えない複雑な気持ちになる。



